七十五話・サイカの楔を砕いてやる！
「ふう...やっと見つけた」
「.........」
「なんだ？主様をガン無視しちゃうのかな？」
「ガン無視したのは、そっちの方ッス......」
ふて腐れながらも、サイカはライに返事を返してきた。
「隣、座っていいか？」
「勝手に座ればいいッス......」
「じゃあ、遠慮なく...っと！」
体育座りで頭を垂れているサイカの隣に、俺はチョコンと腰を下ろす。
「.........」
「.........」
「...行くんッスか？」
しばらく続く沈黙の後、口を開いたサイカがボソッと呟く様にライに
聞いてくる。
「ああ、行くよ...」
「どうしてッスか！魔王とわかっているのに、そいつの本拠地なのに
どうして、主様は......」
感情を露にした叫声で自分の気持ちを述べるが、ライの気持ちはかわらないと
気づいているからか、次第にその声がどんどんと小さくなっていく。
「...お前の為だよ」
「へ...？」
「キジュさんの言っていた、ミュン様の事も気にはなっているけど...今回の
クエストを受けたのは、お前のリハビリの為だよ！」
「わ、私のリハビリ...ッスか...？」
ライの突然と口に出したリハビリの意味がわからずに、サイカはその目を
パチクリとしている。
「さっきから何回も言っているが、ユユナの奴は昔の魔王じゃない...。
にも関わらず、サイカ...っと言うより、心がその呪縛のせいで昔の魔王と
ユユナを同列扱いに決めつけちまっている...」
「呪縛...確かに、主様の危険を助ける為に一歩も動けないなんて、こんなの
本当に、呪いもいい所ッスよ......！」
先程、ライを助けに動けない自分を思い出したのか、悔し涙を浮かべて
拳をブルブルと震わせている。
「だから、あいつの所にお前を連れて行き、魔王に対する呪縛と言う楔を
強引に叩き潰してやろうと思っているんだよ！」
「え...！？そ、それじゃ、主様があいつらのクエストを受けたのって...
私の為なんッスか！」
「そう言う事！たっく...何が魔王憎しだっ！そんなクソみたいな楔、
俺が粉々に砕いてやるさ！何せ、俺はお前の主様だしな！」
サイカにあんな顔をさせた、大バカ野郎自慢の楔を砕いて捨てて、
その鼻っ柱を絶対に叩き落としてやる！
「じゃ、主様はこの楔を砕く案が、何か浮かんだんッスか？」
「イヤ...それはまだ何に浮かんでない...。でもあいつと...魔王のユユナと
接する事で、お前の何かが変わるかもしれない...」
そう...俺はそれを期待したい...。
「でも...それじゃ私が暴走したら、あの魔王が危険じゃないんッスか...？」
「え...！？」
サイカの発したその言葉に喫驚し、俺は思わず目を丸くする。
「え...！？...じゃないッスよ、聞いていなかったんッスか！」
「い、イヤ...そうじゃない、今お前...ユユナの事を心配したよな...？」
「そ、そりゃするッスよ...。だって、あいつ魔王ッスけど、主様の
大事な人ッスからね！」
ふてくされつつも、サイカはその事を心から心配している表情を
している。
「ああ、そうだな...。なぁ...サイカ、お前気づいているか...？」
「気づいているって、何をッスか？」
「お前...ユユナの事...魔王の事を心配したんだぞ、その理由が俺が
きっかけだとしてもだ！」
「わ、私が...魔王の心配を...！？そうッス...何故、私は魔王の心配なんかを
口に出したんッスか...？」
そうッス...魔王に手を出したら、きっと主様が哀しむと思ったから...。
「主様！私...私...こんな気持ちは初め―――――はにゃっ！？」
「アハハ！これはいける...いけるな！お前は嫌だろうが、俺の...主様の為に
我慢して、このリハビリにつき合ってくれよ！」
俺は嬉しあまり、サイカをギュッとハグをすると、そのままの勢いでその場を
くるくると回った。
「わかったッス...。私もさっきの様な事はもう二度とゴメンッスから、
そのリハビリを...頑張ってみるッスよ！」
「やってくれるか！はは...！お願いを聞いてくれてサンキューな♪」
「はうっ！？」
肯定の言葉を聞いたライは相好を崩す笑顔を見せ、サイカの頭を
わしゃわしゃと、ちょっと強めに撫で回す。
「本当に変わった主人ッスよ。聖剣の私をここまで親身に考えてくれるなんて...
変わっているっていうか、馬鹿ッスよ...本当」
嬉しそうな表情で自分を撫でているライの姿を上目遣いでジッと見ると、
サイカの頬は紅に染まっていく。
「よっし！サイカの機嫌も直ったし、クエストを再開するか！」
「そうッスね！さあ、さあ、行きましょう主様！」
「おいおい、そんなにはしゃぐと転んじまうぞ！」
サイカがお日様の様な笑顔ではしゃぐ姿を見て、俺は改めて楔を砕いてやると
そう、心の中で誓いのだった。
――――――――――
「グギャアアア―――――ッ！？」
「おいっし、やりましたよ主様！これでクエスト達成ッスよ！」
サイカの技を食らって、倒れているローウルフの横をピョンピョン
跳ねて喜んでいる。
「色々あったが、日が暮れる前にダーロットへ帰れそうだな...」
俺は天を仰ぐ様に空を見ながら、今日起きた様々な出来事を頭の中に
思い浮かべ、よく無事だったなと安堵感に胸を撫で下ろす。
それから少し休憩をして、俺達はダーロットへと足を向ける。
それからしばらく歩く事、数十分後...。
「お、ダーロットが見えてきたな！」
「そうッスね、さぁ～主様！早くギルドに帰ってクエスト達成を
知らせましょうッス！」
「おいおい、サイカ...さっきも行ったがそんなに慌てると転んじまうぞ！」
「そんな事ないッ―――あべっ！？」
ライの方を見ながら喋っていたせいで足元の石に気づかずに、サイカが
豪快に素っ転んでゴロゴロと転がって行く...。
