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七話・緊急要件


しばらく沈黙した後、ミルナの唇が俺の唇から

ゆっくりと離れて行く。


「どう?これで証拠になったかな♪」


ミルナは今の行為が恥ずかしいのか、頬を紅色に染め

少し照れが入った言葉で、ライに囁くように話す。


「ちょ、ちょ、ちょっと、お前!

い、い、今、俺に何をしたんだ!?」


俺は激しく動揺し、言葉がうまく口から出て来ない。


「キスしましたけど、何か?」


ミルナは自分の唇に人差し指をそっと当て、

恵愛な表情でライに言葉を投げかける。


「き、キスって冗談にしても、度が過ぎてるぞ...」


「ここまでしても、まだそんな言葉が出るんだ...。

これは重度の鈍感だな...」


ミルナはライの鈍感な言葉に、呆れたと嘆息を吐く。


「え、何?じゃあ...本当に俺の事を?」


「う~ん、これはもう一回キスした方がいいのかな?

じゃあ、今度は大人なのをやっちゃうか!」


ミルナが両手で、ライの頭をガッチリ掴み、

ゆっくりとライの唇に自分の唇を近づけて行く。


「ちょっと、待って~!わかった、信じる!

取り敢えず、信じてるから、ちょっと待って下さい!」


俺は近づくミルナの顔を必死に離そうと

躍起になっていると、奥からドアの開く音が聞こえた。


「ライさん!お待たせいたしました。

無事、換金の方が終わりましたよ!」


「っ!?」


レスティーが、換金部屋から硬貨の入った皮袋を持って、

ライのいる場所に早足で近づいて来る。


「ライさん...今し方、

誰かとお話しされていませんでしたか?」


「れ、レスティーさん!イヤ...それ...は...ですね...」


俺はレスティーさんに、キスの事を気づかれない様、

思考を働かせ誤魔化そうとするが、

口から出てくる言葉は、しどろもどろの言葉だった。


「あれ?でも、誰もいませんね?」


「そうなんですよ、誰もいませ......

って、え?誰もいない...?」


いつの間にか、いなくなったミルナをギルド内に目線を向け、

くまなく探すが、俺の目線をどこに合わせても

ミルナの姿は、まったく見当たらなかった。


「どこに行ったんだ、あいつ...?」


俺はいなくなったミルナを思うと少しだけ、

胸がざわとする感覚に際まみれた。


「す、すいません、私の気のせいだったようです!

こほん...話しを戻しますね...では、お受け取り下さい。

これが今回のクエストと、素材の換金を合わせた報酬金です!」


レスティーはライに報酬金の入った皮袋を手渡した。


「はい。確かに、受け取りました。ありがとうございます!」


報酬入った皮袋を受け取った俺は、レスティーさんに

お礼の言葉を述べる。


「その...所で...ライさん、この後の夕時間って...

お、お暇でしょうか?」


「え、夕時間ですか?まあ...家にいるだけでしょうし、

暇といえば...暇ですね」


「本当ですか、それでは...この後の夕時間、私も...暇ですので、

もし、よろしければ、一緒にお食...」


「残念だが、その暇な時間はキャンセルだぜ!」


レスティーの決死のお誘いの言葉に水をさす

野太い声がギルド内に響き渡る。


「よう、ラル坊!久しぶりだな、元気にしていたか!」


そこに現れたのは、このギルドを運営している長で、

ギルドマスターと呼ばれる人物だ。

見た目は、ガッチリ筋肉の塊、

顔は恐面で、まさに泣く子も黙る顔をしている。


マスターは、元々Aクラスの冒険者で、

称号二つ名も持っており、

実力もかなりの腕前だったらしい。


「はい!久しぶりです、ギルマス!」


「最後にあったのは、お前達の進級戦以来だっけか?」


進級戦かぁ...あの時は、リィーナが

無茶苦茶してくれて大変だったなぁ...。


俺はあの時の事を思い出して、

ニガ笑いを浮かべる。


「それより...珍しくお前の周りにあいつらが

いねぇ~みたいだが、一体どうしたんだ?」


ギルドマスターは、珍しいものでも見たかの様な視線で

ライの周りを、不思議そうな顔をして見ている。


「リィーナ達ですか?あいつらは、ちょいとした用事で

今も西の森で魔物退治をやってますよ」


「やってますって、あいつら二人で大丈夫なのか?」


ギルドマスターは目を丸くし、二人が心配なのか、

喫驚した表情でオロオロしている。


「それは大丈夫ですから、安心して下さい。

クエストの途中、森の中で出会ったスケットが、

あいつらの近くにいますから!」


「スケット?」


「はい!あのスケット...少年の強さなら、

恐らく大丈夫だと思いますよ!」


「少年?そのスケット、

少年って事は...男じゃねぇか――――っ!?」


ギルドマスターは、さっきよりも喫驚な表情で叫喚し、

ライの両肩を強くガッシリと掴む。


「な、何をそんな事で、驚いてるんですか...!?」


「驚いてるって、お前!あいつらをそいつの...

男のいる所に置いて来て、平気なのかよ!?」


「勿論ですよ!さっきも言いましたが、

あいつ本当に強いですから、安心して置いてこられましたよ!」


「いや、俺が言っているのは、そういう事とは、

ちょっと違うんだがな...。

そうだった、お前って...底抜けの鈍感野郎だったっけ······」


何か察したギルドマスターは、ライに聞こえないくらいの

小さな声で呟くと、静かに肩から自分の手を離し、

落胆を含んだ哀れみの表情で、ライの顔を見ている。


「な、何なんですか!

その捨て犬でも見る様な、哀れみ含んだ表情はっ!」


「まあなんだ、これはお前らの問題なんだし...

俺があ~だこ~だと、とやかく言う筋ではないか...」


ライの叫声の言葉を華麗に無視して、ギルドマスターは

勝手に自己完結する。


「よし!そいじゃ、そろそろ行くとするかなっと、

レスティー!準備はもうできているか?」


「できている訳がないでしょう!」


「ライ坊と話しをしてる時に準備しとけよ...ドン亀だなぁ!」


「誰がドン亀ですかっ!

大体、いきなり現れてキャンセルとだけしか言ってないのに、

何をどう準備しろというのですか!」


「あれ?そうだったっけ?」

 

何の説明もなく、ドン亀呼ばわりに、

流石のレスティーでも、ご機嫌がかなりのご立腹になっている。


「そんなに怒るなって、今からちゃんと説明するから!

実はな...ギルドに突如、緊急要件が入ってきてよ、

それもS級の緊急がな...」


「その緊急要件とやらに、受付係の私が何で

行かなければいけないのですか?」


「よくわからんのだが、ギルド組員の代表を

1人ずつ連れて来いと、五大貴族からのお達しがあったんだよ...」


「五大貴族がらみですか...。それはしょうがないですね......はあ」


レスティーはギルドマスターの口から、

五大貴族の名を聞いた途端、諦めの叫声を呟き、

大きい嘆息を吐く。


「...と、言う訳でライ坊。突然の横槍で入って来て、

色々と騒がせちまって、すまねぇな!

この埋め合わせは、いつかするからよっ!」


「マスターがそんな事を気にする必要はありません。

ライさんへのお詫びは、私がきちんとやっておきますので、

マスターは一切、手出しは無用でお願いしますね!」


「それじゃ、俺の気が...」


「マスターは一切、手出し無用でお願いしますね!」


「わ、わかりました...!」


レスティーは能面な表情だが、憤怒のオーラが体の周りから

噴出しており、流石のギルドマスターも

そのオーラには後退りする。


「じゃ、そういう事なので、すいませんがライさん、

この埋め合わせはきっと『私が』しますから...。

それでは、私達はここで失礼させてもらいますね!」


レスティーはこちらに頭を下げると、

ギルドマスターと一緒に出入り口から出て行く。


「はは...久しぶりに会ったけど、ギルマスは

相変わらず、豪快だな...。

でも、あそこまでギルマスが慌てる

緊急の用事ってなんだろう...?」


俺は慌てる様に外に出ていった

ギルマスとレスティーさんを思い出す。


「ま、別にいいか!俺には関係無い事だし。

それより、レスティーさんの埋め合わせかぁ...楽しみだぜ♪」


俺は考えるのをやめにして、レスティーさんの埋め合わせの

内容を想像し、期待に胸を膨らませる。


「あれだけ騒がしかったのに、急に静かになったな...」


いつもならギルド内に、そこそこいる冒険者も

今日は誰一人いない...。


恐らく、勇者や聖女を探し回っているんだろう。

俺はギルド内を見渡していると、

先程ミルナが隠れていたソファーに視線がいく。


「そういえば、あいつ...ミルナって、

結局、なんだったんだろうな?」


突然と現れて...突然とどこかに消えていった...。

それにあんな...キスまでして...。


「たっく...どこに消えたんだ、あのバカ...」


俺はミルナの事を色々と思い出し、

空虚感を心の中に感じた...。


「...って、ええい!やめだ、やめっ!

何か全然、俺らしくない...こんな原動っ!」


そんな事より、リィーナ達が帰って来る時間まで

まだ、もうちょっとあるな。


しょうがない...家に戻ってから、

後で報酬をリィーナ達の家に持っていくか...。


俺はギルドスタッフにリィーナ達への伝言を残して、

家路へと足を向ける。



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