六十七話・聖剣対魔王
「な、何を言ってるんだサイカ?こ、こいつが魔王だなんって...!?」
「え...!?こ、この気質は...あ、貴女まさか、聖剣サイカー・フォース!?」
ユユナは『絶対察知能力』でサイカの気質の正体に感づくと、目を見開き
喫驚している。
「ええ、その通りッスよ!だからこそ、この私が魔王の気質を間違えるはずが
ないって事ッスよ!」
サイカは自信満々にそう言うと、ビシッと人差し指をユユナに向ける。
「貴女が聖剣...でもじゃあ、何で聖剣がそんな女の子の姿をしているのよ!?」
「私達聖剣は『剣』って名乗りはしているッスけど、元々、形はないんッス!
だから、槍使いなら槍の姿に、斧使いなら斧の姿にって、主様の思い描く姿に
変わる事ができるんッスよ!」
「と言う事はつまり、その女の子の姿も主様...ライの願望が元だって事なの?」
「まあ...そう言う事ッス!」
サイカは腰に手を当てふんぞり返り、何故か自慢気なドヤ顔をしている。
「へ...お、俺が、その姿を...願望した...?」
「ほら...あの時ッスよ、私を握り締めたあの時...!」
「サイカを握り締めた、あの時......」
ライはその時の事を思い出す為に、スッと目を閉じて頭の引き出しを開け
続けていく...。
そして......
「嗚呼ぁ!お、思い出した――っ!確か...あの時かぁぁぁ―――っ!」
そうそう、俺は聖剣に選ばれるくらいなら、ご主人様って呼んでくれる可愛い娘に
選ばれたかったなぁ...一瞬ではあるが、そう考えた事をやっと思い出す。
「ふふん、やっと思い出してくれた様ッスね、主様!」
「はあ...あの伝説の聖剣をまさか、女の子にしちゃうだなんて...斜め上の発想
過ぎて、流石に開いた口が塞がんないよ...」
ユユナはあり得ない聖剣の使い方...いや、聖剣の姿に呆れた表情で溜め息を吐く。
「う...悪かったな。それより斜め上の発想はこっちも同じだっ!何でお前みたいな
奴が魔王なんだ!真面目に聞いても、寝言にしか聞こえないっていうの!」
「な、寝言って、ちょっとそれはヒドイんじゃないかな...!そっちこそ、聖剣を
女の子に変えてイチャイチャしてるなんて、非常識にも程があるわ!」
ライの言葉にユユナはニガ笑いを浮かべ、眉間に寄ったシワをピクピクとさせて
反論する。
「い、イチャイチャなんてしてませんし~!」
「はん、どうだか...!」
「ムムム...!」
「グヌヌ...!」
「二人とも...落ち着け...。そんなケンカを...している場合じゃないで...しょう?
今は...あいつらから...逃げるのが...先だよ!」
くだらないケンカを始めるライ達をミュンが軽く窘め、ユユナに今の事情を
思い出させる。
「あ!そうだった!こんな所で聖剣モドキや、ライと争っている場合じゃ
なかった!」
「ちょっと、モドキってどういう意味ッスか!」
「何だ?あいつらって...誰かに追われているのか...?」
プンプンと激昂しているサイカは無視して、慌てているユユナ達にその事を
聞いてみる。
「さっき、私が話した内容は覚えている?」
「ああ、竜の国に行ってきて、ミュンを助けてきたっていうやつだろ?」
「じゃあ、そんな事をすればどうなるかは...大体、想像つくよね?」
「まあ、何となくね...。追っ手がミュンを掴まえ...もしくは亡きモノにする為に、
こっちに向かってきている...そう言う事だろ...?」
「うん...正解。全く、あいつらときたら諦めがわるくってさ...本当、ウザい連中
だよ!」
「やれやれ...そのセリフは、こちらのセリフですよ、魔王ユユナ様...!」
「なっ!?」
突如聞こえてきた人を見下す声がする方向へ、ユユナが慌てる様に顔を向ける。
「ち、もう追い付いてきたの...!」
「俺も伊達に、竜の国一番の韋駄天を名乗っていませんし...くくく...!」
「そういえばあなた、そんな二つ名を持っていましたっけ?」
「さて...そろそろ諦めて、そこのガキをこちらに渡してもらえませんかねぇ?」
その竜人は下卑た表情で口角を上げて、手を差し出すポーズを取る。
「自分の国の王女様をガキ呼ばわりとは、不敬もはなはなしいわね...!」
「生憎、俺達グイッタ一族は皆、そいつを竜の国のトップとは認めては
いませんので...はい」
「認めていないって、それは所詮小さな声でしょうに...。それをここまでの事を
起こすなんて...あなた達グイッタ一族の器って、本当に小さいのでしょうね...」
憐憫な表情を浮かべたユユナが、その竜人を心底ゴミを見る様な目で見ている。
「小さいですと...我々、グイッタの悲願の心を、それを小さいと申しますか、
魔王よっ!」
竜人がグヌヌと言わんばかりの憤怒顔で、拳をブルブル震わせながらユユナに
そう問う。
「はい、小さいですね...。イヤ、ちゃっちいと言った方がお似合いですか...♪」
ユユナは屈託のない笑顔で、竜人にそう答えを返す。
「許さん...許さんぞ!魔王だから下手に出ていれば、調子に乗りおってぇぇ!」
「あなたが下手に出ていた?いつどこで?何時頃?あっれぇ~おっかしいなぁ?
あなたが下手に出てた記憶が全くないのですが...?」
「ん...最初から...見下し全開...だったぞ...お前...ふふのふ...」
ユユナとミュンが竜人を挑発するがの様にクスクスと失笑しながら、小馬鹿に
している。
「お、おのれ...俺達から逃げ出す事しかできなかった軟弱魔王の分際でっ!
今度こそ、亡きモノにしてくれるわっ!」
「そりゃ、逃げ出すでしょう...。流石に何百っている竜人を一気に相手にする程、
私はお馬鹿さんじゃありませんよ...そして...」
「たった一人の竜人に遅れを取る程、間抜けでもありませんっ!」
『覇王、激断波ァァァ―――――ッ!!』
ユユナが拳をグッと握り締めると黒のオーラがどんどん集り、そして相手に
目掛けて拳を突き出すと、黒い閃光が竜人に向かって無数に飛んで行く!
「な、バカなっ!?俺の動きより早いだ―――――ッ!?」
竜人が黒い閃光を避けようとするが、避けるよりも早く閃光に直撃してしまい、
断末魔を言い終わる前に黒い閃光の中へと消えていく...。
「ふん...他愛もない!」
竜人が消滅したのを確認すると両手をパンパンと叩き警戒心を解く。
「おお...竜人を一撃かよ、やっぱりお前って魔王なんだな!」
「だから、そう言っているでしょう...もう!」
ライの言葉にユユナは頬を膨らませ、ムムッとした表情をしている。




