六十六話・番外編13 シス・シーカット
「ユユナさんにも、私達の安全も確認させましたし、そろそろ私は
この辺で失礼させてもら――」
「...って、帰すかぁっ!!」
「―――はぎゃっ!?」
その場を去ろうとする私の背中にプルア様が三度、ジャンピングして抱き
ついてきた。
「な、何をするですか、ダークロンの件で私への恩は返せたでしょうが!」
私は再度、強打した鼻を擦りながら、抱きついて離れてくれないプルア様に対し、
そう述べる。
「た、確かにダークロンはオレの攻撃で倒した...だが、シスのこの魔道具と
シスの助言がなければ、ダークロンは倒せていなかったはずだ!」
シスから貰った『氷上』を見せつつ、自分の思いの丈を全てを吐き出す様に
プルアは叫声を荒らげる。
「ハア...本当に面倒くさいですね、プルア様という人は...。結果を見れば、私は
何もせず、プルア様はダークロンを倒した...これが事実なんですよ!」
「しかし...」
「しかしも、かかしもありません!結果は結果なのです!とにかく、これで
私はプルア様から恩は返して貰いました...では、今度こそさような―――」
「会いに行くぞ...」
「え...?」
「このまま、帰るって言うのなら、ついていってシスの兄貴に会っちゃうぞ!」
「な、なな...!?」
ぐぬぬ...脳筋の癖にお兄ちゃんを盾にとってくるとは...プルア様、中々策士ですね...。
でもお兄ちゃんにプルア様を、絶対会わせる訳にはいきません...!
何故なら、プルア様って中身はお馬鹿さんですが、見た目はお兄ちゃんのどストライク
なんですよ...特にあの大きい胸がっ!
「ふふふ...さあ、どうするシス?」
「仕方ありません...こうなったら...」
「おお!それじゃ、オレに恩を返させてく――」
「これでプルア様を、完全な無きモノにしなきゃいけないようですねっ!!」
私はそう叫ぶと、静かにマジカルポーチからお兄ちゃんとの愛の結晶...
高周波カッターを取り出し、プルア様に向けて身構える。
「ちょっとぉぉっ!シスさんっ!!そ、その武器はぁぁぁ―――――っ!?」
「さあ、いきますよプルア様...!お覚悟ぉぉぉ―――っ!!」
「嫌ぁぁぁ―――っ!それはシャレになっていないぞぉぉっ!?」
シスは大地を蹴りあげて、空中を舞う様にプルア目掛けて突撃する!
「問答無用ぉぉぉっ!てりゃぁぁぁ―――――っ!!」
「うわぁっ!?」
「チッ!そこっ!」
「はおぉぉわぁっ!?」
「くっ...また...これならっ!」
「ほわっとぉぉぉっ!?」
「これも避けるとは...」
「いやああぁぁぁぁっ!?」
「このフェイントも交わすなんて...!」
「もう、やめてぇぇぇシスゥゥゥ―――――っ!!!」
シスが高周波カッターを振り上げては斬り、斬り下げては上に斬り上げてを
何度も繰り返して、プルアを攻撃する。
「ハァ...ハァ...ハァ...ハァ...もう、プルア様、何で避けるんですか...?」
「避けるに決まっているだろうがぁぁぁっ!当たったら、一発であの世行き
なんだぞぉぉぉぉっ!!」
プルアは目を見開いて、当然だろうが言わんばかりの喫驚を上げながら
シスに抗議の叫声を荒らげる。
「全く...シスさんにプルアもいい加減にしなさいっ!!」
「はうっ!?」
「あべっ!?」
二人の漫才染みたいなやり取りにユユナが呆れ口調でそう洩らすと、
シスとプルアの頭上に思いっきり、ゲンコツを食らわせる。
――――――――――
「すいません...つい、感情的になってしまいました...」
「感情的って...それで全力でオレを殺りにくるとは...」
これからはマジで、シスの兄貴の事でちょっかいを出すのはやめて
おいた方がよさそうだ...はは...。
「とにかく、プルア様、さっきも言いましたがダークロンの件で私への
恩はチャラなんですっ!これはもう決定事項なんですっ!」
私はプルア様の目の前に人差し指をビシッと突き出して、訴える様に
もの申す。
「し、しかしよう...」
「ほら...プルアも意固地にならないの!シスさんがそう言ってるんだから、
素直に聞き入れなさい!」
「うう...わかったよ...」
ハァ...この手の人って、どうしてこう恩義を感じるんでしょうか...。
まぁ、私もこんな態度を取ってはいますが...プルア様の行為事態は別に
嫌いではないんですよね...どちらかと言うと...。
「ふう、しょうがありませんね...。プルア様、これを...受け取って下さい」
シュンとしているプルア様に、私はマジカルポーチから取り出した
私特製のマジックアイテムを手渡した。
「黒いキューブ...?これは何なんだ、シス?」
「それは文字を転送できる私特製のマジックアイテム『言通』です」
「文字を転送できるって、あの文字転送屋みたいか?それで、
一体どう使うんだ、これ?」
「これはですね...まずここに手を置いて...次に送りたい文字を頭に
浮かべる...そして最後は自分のMPを使い、その文字を転送します」
「へえ...仕組みも自分のMPを使う以外は大体一緒なんだな...。でも、
何でこれをオレにくれるんだ?」
プルアはその理由がわからず、表情がハテナ顔になって困惑している。
「もう、馬鹿だねプルアは...。シスさんは遠回しに、それを使って恩を返して
欲しい時にあなたを呼ぶって、そう言ってくれてるのよ!」
「あっ!そ、そうなのか、シス!」
「ハア...ここまで説明しないと理解できないとは...プルア様って本当に
脳筋ですね...」
私は呆れ口調でプルア様にそう言うと、口から深い溜め息を洩らす。
「脳筋言うなっ!でも...そうか、これでいつでも...」
「まあ、そう言う事ですので、呼ばれたらいつでも素っ飛んで来て
下さいね!」
「お、おう!わかった!いつでも呼んでくれ!恩を返す為にいつでも、
行ける様にスタンバっておくからよ!」
「はい...期待しないで待っていますよ...」
「おいおい!そこは期待しとけよ...ったく...」
「ふふ...そうですね...。期待してますよ...プルア様♪」
「大船に乗った気でいろって!」
「ふふ...わかりました...♪」
本当、プルア様はコロコロと表情を変えますよね...そこも何か、
私のお兄ちゃんにそっくりです...。
はあ...!そんな事を考えていたら、お兄ちゃんに会いたくなってきました...!
「...という事で、それでは今度こそ、ここでさよならです!」
「嗚呼!じゃあなシス!今日は良い出会いだったぜ、本当にあのキノコには
感謝だな!」
「だからといって、もう食べちゃ駄目ですからね...プルア!」
「わ、わかってるって、ユユナにも随分と迷惑をかけたしな!」
ユユナのジト目の訴えに、プルアが苦笑しながらゴメンのポーズを取る。
「はは...それでは、ユユナさん、プルア様、また...いつかお会いしましょう!」
「ええ、その時を楽しみにしていますね!」
「何かあったら、絶対に呼べよ!これは決定事項だからなぁっ!」
「はい!それでは二人とも、ごきげんよう...!」
私はプルア様とユユナさんへ別れの挨拶を交わし終えると、二人とは真逆の
方向へと歩いて行くのであった...。
「シス...行っちゃったな...」
「ええ...行ってしまいましたね...」
「しかし、人間にもあんな奴がいるんだな!」
「ふふ...あの見た目であの度胸...見習うべき所が多かったですね」
「だな...。おかげでマジでこれからの励みにもなったしよっ!うっしゃっ!
そんじゃ、オレ達も帰るとす―――」
『ピピピピピ...』
「ん...?なんだ、この音?どこから鳴って...あ、さっきシスから貰った
アイテムが鳴っているみたいだな?」
プルアはシスから貰ったマジックアイテム『言通』を取り出す。
「ん...何か文字が刻んであるな...?」
『シーカット』
「なんだ、これ...?一体どういう意味......ハッ!?こ、これって、
もしかしてあいつの...」
「どうしたのプルア、そんな所でボゥーと突っ立て?」
「い、いや...なんでもねぇ!なんでもな!」
「嘘仰い!その笑顔は、絶対に何かあったでしょう!いいから白状しなさい!
...て、お待ちなさいなぁ!」
プルアは今まで見せた事のない、最高の笑顔を浮かべながら、シスとは
いつ会えるんだろうと心をウキウキさせながら、家路へ駆けて帰って行く。
今回のシス編は取り敢えず、これにて終了です。次話から本編の続きがスタートします。




