六十五話・番外編12 シスとライの愛の結晶
「プルア様の目的はこれで終わりですが、私の目的がまだ終わっていま
せんでした...」
え...と、確か...あれを作るには、ダークロンの角と牙が必要でしたね...。
これらを採取できる道具はあれが適任ですか...。では、あの素敵魔道具を
使うとしましょう...ふふ...よいしょっと!
私はマジカルポーチの中をゴソゴソと探り、目的のアイテムが見つかると、
それをマジカルポーチから取り出した。
「シス...何だ?そのノコギリみたいな道具は?」
「これですか?これは硬い物を採取する為に開発したマジックアイテム...
その名も『高周波カッター』です!」
「ええぇぇ―――ぇっ!何でそれは漢字二文字じゃないの!?」
「何ですか、その漢字二文字と言うのは?私、別にそんな縛りなんてして
いませんが?」
「イヤ、してたじゃん!魔探とか、閃光とかさ!」
「それは二文字のマジックアイテムを連続で使っただけの...偶然って、
やつですよ」
「そ...そうなのか...?オレの気のせい...なのか?」
「ん...何か斬りにくいですね...。これで斬りにくい所を少し溶かしますか、
このマジックアイテム『火鉢』で...!」
「お―――っい!やっぱり、それも漢字二文字じゃないかぁぁ――――!!」
言ったそばから、漢字二文字のマジックアイテムを出してくるシスに
目を見開いたプルアが叫声を荒らげる。
「もう...偶然って言ってるじゃないですか、私の採取の邪魔をしないで
くれませんか、プルア様...!」
「こいつ、絶対に認めないつもりだな...」
この高周波カッター...実は命名はライなのだが、それを言うとライの話を
プルアにしなくてはならなくなるので、シスは絶対にその事をプルアに
教えるつもりはないのである...。
「よし...ここまで溶かしたら、後は斬るだけですね...」
「なあ、それを斬るのって、少しシスには骨がいるんじゃねえか...?
オレが代わりに斬ってやろうか?」
「ハア...死にたいんですか...プルア様...?」
「なんで!?オレ、シスの代わりにそれで斬ってやろうかって言った
だけだよねっ!?」
この高周波カッターはお兄ちゃんが私の為に設計案を考えてくれて、
それを私が組み立てて作りあげた物...言わば、お兄ちゃんと私の愛の結晶!
その大事な愛の結晶に触れるなんて行為、プルア様だろうが許しません!
「こほん...ちょっと言い方を間違えました...。でも、これは私の仕事なので
誰にも頼りたくないのです...すいません...!」
「言い方を間違えったって...どこをどう言い間違ったら、殺すの単語が
出てくんだよ...。まあ...いい、確かに自分でやり遂げたい事もあるよな...
無粋な事を言ってしまった、すまないシス!」
「本当...言葉はちゃんと選んで使って下さいね...。次はありませんよ...」
「うわっ!あの目...本気で殺る目だっ!?」
シスの能面表情を見て、プルアはその身をブルガクさせている...。
「では...高周波カッター起動っ!てぇぇぇりゃぁぁぁっ!!」
シスはダークロンの角を目掛けて、高周波カッターを振り上げ...
気合いの言葉と同時に降り下ろした!
「えええぇぇ―――っ!?あの硬い事で有名なダークロンの角が
一瞬でスパンッて、落っこちたぁっ!?」
「もうひとつの角も......ていぃぃぃっ!!」
シスは降り下ろした高周波カッターの歯を上に切り替え、もうひとつの
ダークロンの角を目掛けて振り上げると、その角も豆腐でも斬るかの様に
簡単に斬れ、そして地面にポトンッと落ちた...。
「これで...よしっと...この角、中々いい感じの素材みたいですね...」
「おいおいおいおい!シス、なんだその武器の切れ味は!?」
切り取った素材を拾い上げて、鑑識する様に品定めをしているシスに
プルアが喫驚した面持ちで、高周波カッターのとんでも威力に対し、
問うてくる。
「武器?何を言っていらっしゃるのかしらプルア様は...これは素材を
採取する道具で、別に武器ではありませんよ?」
「イヤイヤイヤッ!あの硬いダークロンの角を、豆腐みたいにスパッと
斬っておいて、その考えはちょっとおかしいだろうっ!?」
「全く...威力が高ければ、それが武器だなんて...ナンセンスもいい所ですね...」
「あれ...?オレがおかしいのか、これ...オレの考えがおかしいのか!?」
「はい。とても恥ずかしい事ですので、その事をあまり人には言わない方が
いいですよ...てりゃああぁぁっ!!」
「...って、ダークロンの牙を一瞬で全部斬り落としておいて武器じゃないは、
絶対に無理があるだろうがぁぁぁ―――――っ!?」
プルアはもう何がなんだか、わからなくなってしまい、涙目で訴える様に
叫喚する。
「はいはい...泣かない、泣かない...プルア様。さて、これで私の方も無事に
終わりまし...ユユナさんの所に戻りましょうか」
「うう...何かオレの扱いがどんどんひどくなるな...」
プルアの泣き言を適当にあしらうと、シスはユユナの待っている場所に
歩いて行く。
「お待たせです、ユユナさん...無事にダークロン討伐と素材集め、
終わりましたよ」
「あ...シスさんにプルア、二人ともお帰りなさい...!見た感じ、ケガは
してないみたいだね。良かった...無事に帰ってきてくれて...」
ユユナは、二人の無事そうな姿を見ると安堵で胸を撫で下ろした。




