六十二話・番外編9 シス、魔探を使う
「...って、何で戦闘体勢に入ってるんだ!」
「決まっているじゃありませんか、私の採取を邪魔する=敵...でしょう!」
「敵じゃないって!採取を邪魔なんてしないってばっ!オレの目的は
ダークロンさえ倒せればいいんだからっ!!」
「倒せれば...じゃあ、私の素材アイテムを奪おうって訳では...?」
「ないない!例え、素材アイテムが目的だったしても、恩人のシスを
優先するって!」
プルア様のあの必死にまでに焦った表情...満更、ウソではないようですね...。
プルアの必死な顔を見たシスは、取り敢えずは信じる事にし、戦闘体勢を
解いた。
「ふう...いきなり戦闘体勢に入ってるなよ...本当にビックリだったぜ!」
「私はお兄ちゃんを反面教師にしていますから...」
「へえ...シスの反面教師って事は...とんだお人好し馬鹿って奴なのか!
アハハハ...そりゃいい!是非、会ってみたいなその馬鹿なお兄ちゃ...って、
うわ!?」
「ほう...私のお兄ちゃんを馬鹿呼ばわりで笑うとは...そんなに死にたいんです
か...?この世にはね、プルア様...言っていい事と、わるい事があるんですよ...」
私は能面の表情でプルア様の顔をジッと睨む様に見つめ、そう述べる。
「のわぁぁっ!?ちち、違う違うっ!そういう意味で言ったんじゃないって、
オレ、そう言う馬鹿な奴...結構大好きだから...会ってみたいなぁって思―――」
「どうやら、死にたいようですね、プルア様♪私...今、言いましたよね...?
この世には言っていい事と、わるい事があると...」
「何でぇ!?オレ、シスのお兄さんの事を好意があるって誉めたよね!?」
なのに、何でシスの奴あんな表情で睨んで...イヤ...微笑んで...
イヤ...微笑んでいるのに笑っていないっ!?何これ?めっちゃ怖い...っ!?
「まあまあ、シスさん落ち着いて下さい。先程も言いましたがこの娘、
脳筋だから...勘弁してもらえないかしら...」
「あ、ハイハイそうでした、プルア様は脳筋さんでしたね...しょうがない、
今回は許しましょうか...」
「んだよ!二人して脳筋、脳筋って...泣くぞ!引くほど泣いちゃうぞ!」
プルアの瞳がうるうるした涙目に変わり、二人の会話に対して抗議する。
「さて...結構、無駄な時を過ごしてしまいました...。そろそろダークロンの
退治に行きたいんだけど...」
「グス...ああ、そ、そうだな!ダークロン退治...行こうか!」
あ...もう立ち直った。流石、脳筋ですね...。
「それでシスはダークロンの居場所はわかっているのか?」
「それなら大丈夫です...あれがありますから...」
え~と...あのマジックアイテムは、確か...ここら辺に保管して...
ありましたよね...?お、ありました、ありました...!
シスがマジカルポーチから、何か球体らしき物を取り出してた。
「なんだ、シス...その丸っこい物は?」
「これは私が作った、マジックアイテム『魔探』と言いまして、
これを使えば、どんな魔物だろうと、どんな魔族だろうと、探知が
できるアイテムなんですよ!」
「どんな魔族も...じゃあ、高位魔族なんかも探知できるのか!?」
「当然です...これを使えば、容易く見つけ出せますね...!」
「そ、それでじゃ、魔王...も、魔王もそのアイテムで見つけ出せるん
ですか?」
「え...魔王...ですか?」
「おい!その質問はしちゃ......」
「う~ん、それは流石に無理ですね...。私が聞いた限りでは魔王というのは
クラス名だったはず...。この魔探は人種や魔物の魔力や姿等を特定する事で
それらを発見するアイテムなので、クラス名で探し出すのは、ちょっと...」
「そ、そうなんですか、それは残念ですね!」
「残念...?ユユナさんって、もしかして魔王に会いたかったんですか?」
「会いたいっていうか、探し出せたら凄いな...って思っただけだよ...はは」
「まあ...確かにそれができたら、世界的大発明ですね...!」
なるほど...魔王を探し出す...ですか...。それは中々に興味深いですね...。
魔王クラス魔力探知するには...う~む、あれでは...駄目ですね...
じゃあ、あの素材は...
「お、おい、ユユナ!なんであんな事を聞いたんだよ!」
「だって、もしかしたらって思い、つい...」
「ほら...シスの顔を見てみろ!あれは絶対に魔王を探せるアイテムを
作ろうと思ってるぞ!」
「ま、まさか、いくらなんでも...あ、確かにシスさんの顔が野心家
みたいな表情に...これはしくじったかもしれない...あ...はは」
ユユナは自分のうっかりに発言に、思わずニガ笑いを浮かべ後悔の念を
抱いてしまう。
「まあ...そんな未定な事は今は置いておくとして...さあ、ダークロンを
探しますよ...」
シスは一旦、魔王探しアイテム作りの思案をやめ、ダークロンを探す為に
魔探を作動させる。
『目的ノ魔物発見...ココカラ南西...距離...約1500メートル先ニ...イマス!』
「南西...1500メートルですか...それじゃ、行きましょうか...!」
「お、おお!そこにダークロンがいるのか...ついに目的と対面か...!
腕がなるぜっ!...って、いない!?」
そこにさっきいた筈のシスがいない事に気づき、周囲をキョロキョロと
見渡すと、既に遠くにいるシスを発見する。
「嗚呼!あんな所に!?お~い!シスゥゥ~!オレを置いて行かないで
くれよ~!」
慌ててプルアがドタドタと音を鳴らして、シスの後を追い駆けて行く。
「ぜぇ~ぜぇ~ちょっとシス!置いてくなんて、少しひどくないか!」
「置いていってませんよ?だって私、行きましょうか...って言いましたよね?」
「うう...言った...確かに言ってました...」
「なら、そちらがわるいんであって、それを私のせいにするのはお門違いも
いい所です...!」
「は、はい...反省します...」
「わかればいいのです...じゃ、進みますよ...」
「オレ...一応、一国のお姫様なんだけどな...何かこの扱いって、
本当にひどいよね...」
プルアは扱いのひどいさに、ちょっとだけ心が折れそうになってしまう。
それからしばらく南西に歩いて行く事、数十分......。シス達は目的の
ダークロンがいる場所に辿り着いた。
「着いた...ここが魔探が示した場所...」
「見た感じ、森の木以外に何もないな...?」
シスとプルアが周りを見渡すが、ダークロンの気配は全くと感じられ
なかった。




