五十七話・竜の王女様
『ウリャァァッ――!衝撃破を食らうッスゥゥゥ―――――ッ!!』
「キャアアアアガアアアァァァァァ――――――ッ!!」
「お、ご苦労様、サイカさん!」
「ハア...ハア...た、確かに...出番が欲しいって、さっき...呟いたッスよ...
でも連続バトルで私頼りって、いくらなんでも...ヒドくないッスか!?」
「チチチ...頼るのも頼られるのも、パーティの醍醐味ってやつなんだ...
だから感謝はすれど、嫌味を言っちゃ駄目なんだぞ!」
サイカに向かって人差し指を横に振りながら、俺はパーティは何ぞやを、
熱く語って聞かせる。
「そりゃ言いたくもなるッスよ!あれだけギルドで熱く語っていた仲間を
危険な目には晒さないって言葉は一体、どこにいったんッスかね...!」
「さて...これで三匹目か...!うっし、残りもちゃっちゃと退治して、
夕方までにはクエスト討伐を達成させるぞ!」
「ちょ!どこに行くッスか!人が真面目に話しているのをガン無視で
置いてきぼりって...さっきから本当にヒドイッスよ、主様っ!」
サイカの悲痛の叫びを面倒と、ライは左の耳から右の耳へと軽く聞き流し、
次のローウルフを探す為にその場を早足で離れる。
『目的ノ魔物発見...ココカラ約50メートル先に...イマス』
さっきいた場所から少し離れた所でライが魔探を使うと、そこから
遠くない前方にローウルフがいるのを発見する。
「50メートルって、意外に近いな!ここから弧月斬を撃っても、
ローウルフに届くんじゃないか?」
『ハアァァ!弧月斬ッ!エリャァァァ――――ッ!!』
俺は魔探が差した方角に向けて、弧月斬を撃ち込む!
撃ち込んだ弧月斬の波動が弧を描き、ローウルフへ目掛けて
素早く飛んで行く!
「キャワアアアアアァァァ――――ッ!」
「おっし!当たった!」
ローウルフの断末魔が聞こえた後、俺は退治できたかを調べる為、
じわじわ油断せずにその場所へ近づいて行く。
「確か...この草むらの向こうから聞こえてきたよな?」
俺は慎重にゆっくりと草むらをわけて、ローウルフが倒れているかを
確認する。
「...って、いない?」
「主様!上ッスよ!上!」
「上だとぉぉぉ―――ッ!?」
ええぇぇ――っ!またこのパターンなのぉぉぉ――――っ!?
サイカの発した言葉にデジャヴゥを感じ、俺は慌てて上を見ると
ローウルフが口を開き、ヨダレをたらしながら襲いかかってくる!
『魔神の雄叫びぃぃぃ―――――!!』
「ギャイン―――――ッ!」
どこからか放たれた黒い真空波がローウルフに直撃すると、
音が響くくらいの勢いで大木に叩きつけられ、悲鳴を上げる!
『よし!今だ、弧月斬――――ハァァァッ!!』
俺はその隙を逃さず、大木に叩きつけられたローウルフに向かって、
弧月斬を撃ち込んだ!
「キャワアアアアアァァァ――――ッ!!」
断末魔が響くと同時に、ローウルフの胴体が弧を描く様に真っ二つと
なり...その後、完全に絶命する。
「ふう...危なかったぜ!サンキューな、サイカ!」
「イヤ...今のは私じゃないッスよ!」
「へ...それじゃ、今のは誰が......?」
キョロキョロと周りを見渡すと、俺の目線が見た事のある人物を
捉えた。
「あ、お前はユユナ!?」
「やあ!幾日ぶりだね、ライ!」
そう...あのダボッとしたローブを身に纏った少年...ユユナが俺に
微笑んで挨拶すると、ゆっくりとこっちに向かって歩いて来る。
「な、何でこんな森の中にお前がいるんだ?あ、そうか!お前も
クエスト中なんだな?」
「ううん、違うよ。私は、ちょっと竜の国に用事があってさ、
で...今はその竜の国から帰ってきた所なんだ」
竜の国!竜の国って、あのドラゴンがいっぱいいる?
ドラゴンか...俺が昔、よく読んでいた絵本の主人公が竜人族の王女様で、
その竜人族の王女様って言うのが、これまた物凄い美貌とナイスバディの
持ち主らしくってさ、そのナイスバディが戦場を駆けて戦う姿は天使の如しと
描いてあるのを見た俺は、いつかその天使様に会って見たいとよく思ったものだ...。
ちなみにその絵本はリィーナに没収されてしまった...。抗議の言葉を吐いたら、
今度はアルテに真面目な顔で数時間、説教された...
本当に解せぬ......。
その憧れの王女様のいる国...竜の国にユユナが行ったんだ...いいなぁ...
竜の王女様には合ったんだろうか...?イヤ...一般人が会えるワケないか...。
でも...ユユナの奴、何をしに竜の国に行ったんだろ?あそこって
人が行くには、難関な場所だったはずだが...?
う~ん、ちょいと気になってきた...。よし...聞くは一時の恥、
聞かぬは一生の恥って言うし...ここは聞いてみるか......!
「な、なぁ...ユユナ。竜の国に一体、何の用で行ってたんだ?」
「それは...その...ええっと...」
ライの問いを受けたユユナは、その問いに困惑した言葉で口を濁す。
「ん...?俺に言えない事なのか?ま...無理には聞かないけどさ...」
「それは...うん、そうだね。ライになら、別に言っても構わない...か...。
お~い、ミュン~!そこからもう出てきていいよ~!」
「ん...わかった...」
大きな声で名前を呼ばれたミュンと言う人物が、ユユナの後ろにある大木から
ちょんと顔を出してくる。
「このミュンを...竜の王女様を私のし...ゲフン、屋敷に連れて帰るのが、
さっき言っていた私の用事ってやつだよ!」
「へえ...竜の王女様をねぇ...それはご苦労さ......へ!?竜の王女様...!?
ユユナ、お前...今...竜の王女様って、言わなかったかぁ...!?」
俺は竜の王女様と言う単語を聞いて、目玉が飛び出る程、目を見開いて、
ユユナに何度も確認の言葉を投げかける。
「言わなかったかって...もう!ライったら、人がせっかく意を決して教えて
あげてるんだから、ちゃんと聞いてなさいよね!」
ライの発した言葉に呆れたユユナが、激おこ状態でプンプンと怒っている。
「イヤイヤ...そこはちゃんと聞いてたって!俺が言いたいのは...その娘が
竜の王女様って、本当かどうかを聞きたいんだよっ!」
「だ~か~ら、さっき私、言ったよね...!この娘が竜の王女様だってさっ!」
「や、やっぱり...そうなのか...その娘が竜の王女様...なのか...っ!?」
「ちょっと、ライッ!?何でそんなに無念って顔をして項垂れているのよ?」
目の前で今にもぶっ倒れそうな勢いで、ガクッとしているライの姿を見て、
喫驚したユユナがその訳を聞いてみる。
「だって...竜の王女様って絵本の話の中では、物凄い美貌とナイスバディの
持ち主って描いてあってさ...きっと、今の竜の王女様もナイスバディの
ナイスオッパイだろうって、信じて疑わなかったんだよ...!」
「はあ...!?」
「それなのに...それなのに...何故、そこの竜の王女様のオッパイは、
モカより真っ平らの盆地胸なんだよぉぉぉぉぉ――――――――っ!!」
昔から憧れていた人物の竜の王女様とは、真逆の存在である目の前の
竜の王女様に対し、ピュアな俺の心が今にも砕けそうになるのであった...。




