五十六話・改めて...
「...と、言う訳でこの依頼はキャンセルします、キャンセル料は
報酬額の半分だから...」
「キャンセル料はいらねぇよ...」
キャンセル料をクナに確認すると、いらないと言う言葉が返ってきた。
「イヤ...そういう訳にはいきませんって、サイカが勝手にやった事とはいえ、
ルールルールですから!」
「ガハハ...!お前、こいつへのさっきの気配りの言葉といい、今の真面目な
言葉といい、鈍感野郎の癖に律儀な性格をしてやがんな!」
「鈍感な癖には余計ですよ!」
全く、みんなして鈍感、鈍感って...本当、失礼な話だよなぁ...。
「それにな...ルールを言うなら、リーダーのお前にクエスト受理の意思を
通さなかったこちらの不手際の謝罪をするべきなんだ...キャンセル料なんて、
お門違いも良い所さ...」
ライの瞳をジッと見ながらクナが一礼し、お詫びの言葉を述べてくる。
「い、いいですよクナさん、そんな事をしなくても!こっちも空気を読まずに
断りの言葉を吐いているんだし...!」
「そっか...じゃ、その言葉をありがたく受け取っておくぜ!」
ライにもう一度クナが一礼をすると、ニカッと笑顔を見せてくる。
「んじゃ、こいつを渡してぜ!サイカのギルドカードとパーティ登録の
受理書だ!」
クナが懐から、パーティ登録受理書とサイカのギルドカードを取りだし、
ライへと手渡した。
「ハイ...確かに受け取りました!」
俺は受理書とサイカのギルドカードを確認し、受理書は懐にしまい込み、
ギルドカードは、サイカへ手渡した。
「ギルドカード、ステータスカード、そして、パーティ登録...
これでクエストができるな。よし!それじゃサイカ、クエストの
選び直しをするぞ!...って、お~いサイカ!どうした、俺の声が
聞こえてるか~?」
「ウニャッ!にゃ、にゃんするんッスか!耳元でいきなり息を
吹き掛けるなんて、ビックリするッスよ!」
さっき俺がやられた様に、サイカの耳元で言葉を発すると、
同じリアクションで驚いて後退りする。
「イヤ...声をかけただけなんだが、聞こえていなかったのか?」
「すいませんッス、ちょっと...このドキドキはなんだろうって
考えていたものだから...!」
「ドキドキ...?」
「い、いいえ、こ、こっちの事ッスから、主様は気にしないで
下さいッス!」
サイカが俺の質問に対し、頬に汗を掻き、誤魔化す様に苦笑を浮かべる。
「そ、そうか...そう言うなら、もう聞かないが...」
「それより、今何て言ったんッスか?」
「おう。それはな、クエストを選び直そうって声をかけたんだよ」
「そうだったんッスか!じゃあ早速、選んじゃいましょうっ!」
サイカはそう言うと、クエスト依頼が貼ってあるボードに早足で
駆けて行く。
――――――――――
「確か...ここら辺って書いてあったよな?」
俺はその場でとまり、周りを見渡してみる。
「ハイッス!この泉近くにローウルフが出没するって書いてあったッス!」
「よし!それじゃ、戦闘準備に入るぞ...!」
「了解ッス!」
ライがそう号令を出すと、二人は戦闘準備体勢に入り、シス特製の
マジックアイテム【魔探】を使う。
魔探が反応を見ながら、俺は泉の周辺を見渡してみる。
そして俺がある方角に視線を向けると、魔探が赤く光る。
『目標ノ魔物発見。ココヨリ約...1キロ先...イマス...』
そのアナウンスのあと、魔探の使用回数が残り4に変わる。
使う度に残り数が減るんだ...そう言えばシスが使い捨てとか
言ってたな...。
「んじゃ、こいつが示した場所に移動しようか!」
「ういッス!」
ライはサイカと一緒に、魔探が差した方角へと一緒に駆けて行く。
「ハア、ハア...もう、一キロくらいは走ったよな?」
「そうッスね、大体この辺だと思うッスよ!」
サイカに確認を取るとライは再び、魔探を使ってみる。
『目標ノ魔物発見。ココヨリ約200メートル先...イマス』
「ここより、200メートルか...もう目と鼻の先だな!」
ガサ...ガサ...ガサガサガサガサ...!
こちらに何が気づいたのだろうか、草むらが騒がしく音をたてている。
「この音と魔探の方角...こっちに向かっているは間違いなく、ローウルフ
だろうな!」
俺は剣を構えながら、草むらが途切れるポイントまで急いで移動する。
「サイカは、俺が弧月斬を外した時に即座に撃てる様に、何か遠距離の
魔法か技を維持して待機していて!」
「遠距離...了解ッス!」
草むらの音が近づいてきた...感覚で後、3...2...1...今だっ!
『行けえぇぇ―――ッ!こ・げ・つ・ざぁぁぁん――――ッ!!』
俺の大きく振りかぶった剣の軌道から、斬撃が打ち出されローウルフ
目掛けて飛んでいく!
草むらの間から、こちらを覗く様にローウルフの顔が丁度出た瞬間、
ローウルフに当たり、その体を真っ二つにする。
「よっしゃっ!先制攻撃が見事に決まったぜ!」
流石のローウルフも防御もしない...まして、こちらへ突っ込んでくる
スピードもプラスされた結果、威力が数倍に上がった弧月斬を食らい
一瞬で絶命する。
「ヘエ、流石主様!こんな悪知恵を発想するなんて...!」
「おい!それ、全然褒めてないぞ...!」
サイカに悪気はないんだろが、皮肉っぽい感じに聞こえたので
一応、たしなめておく。
「でも、私の出番が全くなかったッスね...!」
「まだ、最初の方なんだ...。多分この後、めっさ頼る事になるから、
そんな顔をしてなんていられないぞ!」
あんまり役に立てなかったのが悔しいのか、シュンとするサイカに
俺はそう述べて、ハッパをかける。




