五十五話・真剣な思い
「それでどうするッスか、主様?この盗賊退治に決めちゃいますか?」
「そうだな...こいつらをのさばらしておくと、迷惑する人が増える
だろうし、盗賊の蓄えも欲しいし...」
そう...ギルドのルールでは、盗賊の蓄えた宝も、その討伐を受けた
冒険者が貰う権利があるのだ。
これはダーロット王がギルド連盟と取り組んだ正式なルールなので、
例えその宝が貴族のだろうと、王族のだろうと関係はなく...
もし、強引に取り上げ様ものなら...今度いっさい、ギルドは王族や
国に手を貸さないと宣言しているので、迂闊に手を出してくる事は
まずないだろう...。
ちなみにリィーナやアルテを人質に取った盗賊達のお宝はキッチリ、
三人でわけた。リィーナ達はいらないって、駄々をこねたけど......
俺が二人に冒険者の心得を説くと、しぶしぶながら受け取って
くれたが...。
「でも、不思議だな...依頼として人気がある盗賊退治なのに、
何でまだ残っているんだろう...?」
「それはな、その盗賊をまとめている頭が、結構な強さなんだよっ!」
ライの疑問を聞いたクナが、その疑問の答えを教えてくれる。
「ギルドマスターの言うようにそいつらは強いぜ...俺の仲間も何人か、
そいつに返り討ちにあってるしな!」
「俺んとこの仲間もそうだ!」
「私は好きだった人をそいつに...うう!」
ライとクナの会話を近くで聞いていた冒険者達がそれぞれの思いを
心が重くなりそうな言葉で語ってくる。
「そんなに強いのか...じゃ、やめよ――」
「しかし、さっき聞いたサイカさんのLVを以てすれば、その盗賊の頭も
倒せるんじゃないか!」
「おお!これで俺のダチにもいい供養の言葉を伝えられるってもんだ!」
「私も...私も...あの人に...あの...人に...うううっ!」
うわ...なんだこの盛り上がり具合は...!めちゃ、断りずらい雰囲気じゃんか!
俺はやるとは言っていないのに、やらなきゃ感の空気じゃん、これ!
しかし、俺はさっきも言ったが、聖人君子じゃない!その場の感情で動いて
死んじゃ元もこもない!なので...
「わ、悪いんだけど...俺もまだ死にたくないし...だから...」
「「「「「............」」」」」
な、何その、空気読めよ的な表情!...っていうか、サイカやクナさんまで
ジッと憐れそうな顔でこっちを見とるっ!?
だが...俺もそんなノリでは絶対に行きたくはない!だってそこまで
親しくもない人間の為に、自分や仲間の命を危険に晒すなんて馬鹿げている!
なので、みんなにはわるいが...意地でも、このクエストは断りを入れる!
「すいません...。俺もガキじゃないんで、その場のノリや正義感で命を
落とす訳にはいかないんですよ...。それにいくらLVが高いからと言って、
まだギルド登録もしていない女の子に、そんな事を頼むのもどうかと思うし...」
俺は真面目な顔をして、断りの言葉をそこにいる冒険者達へ、語る様に伝える。
「う...すまねえ、そうだよな...。命を取られたって言っているのに、
自分は行かず、他人をそこに行かせようとするなんて!」
「ああ、時は何があるかわからない...。どんなに強くても、うっかり
ミスだってありえるしな......!」
「だよね...ライ君にも帰りを待っている人がいるのよね...。私ってば...
もうちょっとで、自分と同じ人を作る所だったよ...!」
「みんな...本当にゴメン。でも、流石に俺も知らない人の為に命を
かけられる程、博愛の心を持った人間じゃないから...」
申し訳ない気持ちで謝ってくる、冒険者達みんなの表情を見た俺は、
自分の力のなさを痛感する。
「...と、いう訳だサイカ、このクエストはやらない方向でいく...ん?
どうした、その手に持っている紙は......?」
「これッスか、これはさっきの盗賊討伐の受理書ッスよ!」
「おいぃぃぃ―――――っ!!
何をやっているんだ、お前はぁぁぁぁぁ――――――っ!?」
俺はさっきまでの思案と思いは何だったのかとサイカに向かって、
思いっきり叫喚する。
「うう...耳が痛いッス...。何をって盗賊討伐に受けたんッスよ!」
何の悪びれもない表情でサイカはライに対し、淡々と話を続ける。
「それに、あんな盗賊連中をいつまでも放っておいても、碌なもんじゃ
ないッスよ!」
「そんな事はわかっている!俺だって経験があるんだし!」
「だったら、やりましょうッス!主様と同じ思いをする人をなくす為に!」
「俺と同じ思い...」
リィーナとアルテが人質に取られた時、俺の心を駆け巡った心の痛みが、
思い出されて...言葉にならない感情がどんどんと沸き上がってくる。
「そうだな...。放って置いたら、きっと誰かが傷つくんだよな...。
だが、だがな...例えそうだったとしても、俺はこの依頼を受けない!」
「な、何でですか主様!その思いがあるなら...!」
「もし...お前があの時の様に人質に取られたら、俺がお前を助けてやれる
確率なんて殆どないんだぞ!」
そうさ...この辺の魔物にも一人じゃ勝てない奴が、どんな方法を使えば
多勢に無勢の俺が勝てるっていうんだ!
「私は大丈夫ッスよ、私のLVを見たッスよね?あれLVの私が盗賊如きに、
負けると思うッスか?」
「...確率はゼロじゃない、もしもという事があるだろう?その時、
無力な俺に、女の子の死に様を黙って見ていろというのか...!」
俺はその言葉をサイカの目をジッと見て、語るように述べる。
「女の子って、何度も言うッスけど、私は剣で―――」
「例えお前が剣でも関係ない!俺の目の前にいるのはただの女の子だ!」
そう、例えサイカの正体が聖剣でも関係ない!俺にとってはもう大事な仲間...
守りたいと思える女の子の一人なんだ!
「お、女の子...はわわわ...な何ッスか、この身体を迸る高揚感は......っ!」
サイカはこの気持ちがなんなのかわからず、ライの情熱のこもった言葉に
ただ、ドキドキとしている。




