四十八話・聖剣サイカー・フォース
「へえ...これが昔、勇者が装備していたっていう伝説の聖剣か...!」
しばらくしてモカが帰って来て、無事に聖剣の移動がすんだという事で、
俺はさっきのお礼の一つとして聖剣を見る許可を得る。
そして、今現在...その聖剣を飾ってある部屋に俺はいる。壁に飾られた聖剣は
神々しいまでに美しく、俺みたいな奴にもわかる威圧感たっぷりの
強さのオーラが滲み出ている。
「なあ、モカ...この聖剣が昔の勇者の剣ならさ、聖剣に装備魔法がかかっている
だろうし...誰も装備できないんじゃないのか?」
確かに伝説の聖剣は凄い攻撃力を持っているんだろうけど、誰にも装備
できないのなら、そんな物...ただの宝の持ち腐れってやつだ。
「それは大丈夫よ。この聖剣には装備用魔法はかかっていないから!」
俺のそんな率直な疑問に、モカがあっさりと答えを口に出す。
「装備用魔法がかかっていない?
それじゃ、もしかしたら俺にもこの聖剣を装備できちゃうかもって事?」
「いいえ、残念だけどライお兄さんには装備できないわ...」
「え...?だって、装備用魔法はかかってないんだろ?」
「うん、装備用魔法はかかってないよ...。でも多分、ライお兄さんには
装備は無理と思う...」
「何か、トンチみたいだな...?つまり...どういう事?」
俺はモカの言っている言葉の意味が理解出来ず、頭の中がグルグルしている。
「えっとね、この聖剣には装備用魔法は元々かかっていないんだ、代わりに
『幻創造魔法』っていう魔法がかかっているの!」
「幻創造魔法?なにそれ...聞いた事ないんですけど...?」
「この魔法はね...って、私が説明するよりも...直接ライお兄さんが直接
体験した方が理解も早いか...。ライお兄さん...ちょっと聖剣に触れてみてよ!」
「触れてみろって...イヤだよ!だって、伝説の聖剣の幻創造魔法っていうのが
発動するじゃないか!」
現に恐ろしい事をさせようとするモカに対し、俺は目を見開きながら叫声を上げ、
全力でその言葉を拒絶する。
「安心して、幻創造魔法はそんな小難しい魔法じゃなく、結構簡単な魔法よ!
...って、いうか!私がライお兄さんにヒドイ事をする訳ないじゃんか!
それを言われて、私...かなりショックを受けたよ!」
ライの心ない言葉にモカは頬を膨らませ、プンプンと怒った表情を
浮かべている。
「ゴメン、ゴメン!そんなに怒んなって...!」
「いいや、許さない!帰ったら頭なでなで一時間の刑だからね!」
「はは...了解!それで許してくれるなら、お安いもので♪」
モカが照れながら要求するその罰の内容に、俺は相好を崩す顔で
肯定の言葉を投げかける。
「それじゃ、改めて...聖剣に触れてみるとするか...」
取り敢えず俺は、モカの言われた通りに壁に飾ってある聖剣に、
手を伸ばして、触れてみる......。
「お、おおぉぉっ!こ、これは......!?」
「驚いているみたいだね?どう、幻創造魔法の構造が理解できた?」
驚きの声を上げているライに、モカはフフン~ンっと口角が上がり、
思いっきりドヤ顔をしている。
「今ライお兄さんが体験している様に、その聖剣に触れようとすると、
まるで幻の様にすり抜けて、掴む事ができないの!」
「...掴む事ができない?」
「うん。選ばれた者以外その聖剣には装備どころか、触れる事もできないのよ...
これでわかったでしょう!さっき、私が言った事の意味がさ?」
「選ばれた者以外に装備できない...か」
「そういう事だから...残念だけど装備は諦めて、眺めるだけで満足してね!」
モカはライの心情を汲み取る様な口調で、慰めの言葉を述べる。
「ああ...そうするよ」
「ん?何か、さっきから元気ないよね?やっぱり、聖剣を装備できなくて
ガッカリしちゃった?」
「う、うん...ま、そういう感じだ」
「そっか...聖剣憧れるなんて、ライお兄さんも男の子だったって事か!」
ライの顔をニヤニヤした表情でモカが見ている中、その本人はある悩みを
抱えていた......。
「......何これ?」
手にガッチリと握られた聖剣を見て、俺は困惑した表情になっている。
え...本当に何これ?モカの言うには、触れる事ができないらしいはずの
この聖剣さん...何故か思いっきり、俺の手に収まっているんですけど......!?
もし聖剣を装備できるなんて事が、世間にしれ渡ったら俺の安息の日々が終わりを
告げるのは百パーセント間違いない......。
ヤバい...これはとてつもなくヤバい予感がする!
俺のこういう時の直感は外れた事がなく、この状況をどうするべきかと頭の中が
試行錯誤している。
確かに聖剣使いに憧れはあるし、現実を受け入れるべきなのか...?いやいやいや!
そうなったら過酷な使命に飲み込まれて、どこかで絶対に野垂れ死にしちゃうって!
うん...そんな運命しか見えない...。だって...俺だもんっ!
俺はそう心の中で自己嫌悪しながら叫声を上げている。
.........よし、決めったっ!!
俺はしばらく心の迷いという葛藤に振り回され、そして今ひとつの答えに
辿り着く......。
「うん!聖剣なんて、装備できなかったって事にしよう!」
一般市民の俺は、至極当たり前の英断する。
「え?何か言った、ライお兄さん?」
「ああ...モカの言う通り、聖剣を装備してみたかったなぁって言ったのさ...」
俺は装備できた事を誤魔化す為、ワザとガッカリした口調で頭を垂れて、
ニガ笑いを浮かべる。
「ほら、そんな落ち込まない...。しょうがないなぁ~屋敷に帰ったら
私の事を抱きつきと言う名の「装備」をしてあげるから!」
「はは...それは、嬉しいなったら、嬉しいなっ!」
モカに抱きつかれても感触がなぁ...と、心の中で呟くが...その思いとは逆に
俺は苦笑しながらこう述べ、嬉しがる振りを見せる。
「ちょっとライお兄さん!その表情...今、私が抱きついても胸の感触がないとか
心の中で思ったでしょう!」
「そ、そんな事は...ない!うん...ないよ~!あ!もうそろそろリオ様が戻ってくる
時間じゃんか!さ、さて、一人で待たせるのもわるいし、急いで戻るとしようか!」
「嗚呼!待てライお兄さぁぁん!逃げるんじゃないぃぃぃ――――っ!」
あまりにも的確に心の中の呟きがバレた俺は、額に汗が次々と滲み出て、
脱兎するがの如く、聖剣の間からダッシュで出て行くのであった。




