四十七話・伝説の聖剣
「実はこの間、ダーロット城の情報部隊がある情報を仕入れてのう...」
「ある情報をですか?それって、どんな情報です?」
モカはダーロット王の言葉を聞く為に、耳を傾ける。
「うむ、それは試練のダンジョンの50階層に『ある物』が保管されていると
いう情報じゃ...」
「50階層にですか...それは結構深い所に保管されていますね?」
「まあ、それはロザリー殿を筆頭にクリアしておるので心配はない...」
マジか!この前、俺のいた階層が確か3階層だったよな...。しかもあの階層の
魔物に結構、苦戦したっていうのに、その何倍の深さの50階層って...。
「ロザリーって、一体どれだけ強いんだろう...?」
俺はロザリーの強さの片鱗を肌に感じ、思わず生唾がゴクッと喉を通る。
「おお!50階層をクリアだなんて、流石ロザリーお姉さんだね!」
ライの称賛に続き、モカもロザリーの偉業に誉め言葉を贈る。
「それで、その50階層に保管されていたある物ってなんだったんですか?」
「それはのうモカ殿...ほれ、勇者物語の絵本等に載っておる聖剣を
知っておるか?」
「勇者物語の聖剣ですか...?」
「嗚呼!俺、知ってる!初代勇者と呼ばれているトウヤが、その聖剣を手に
魔王とその軍団を退治した物語...確か、聖剣の名前は...」
「ハイハイ、私も今思い出したわ。確か、聖剣の名は......」
『聖剣サイカー・フォース』
「もしかしてダーロット王、その聖剣が50階層に保管されていたという...?」
「その通りじゃ!その聖剣サイカー・フォースがこの時代に甦ったのじゃ!」
「おお!スゲエ!あの勇者物語の聖剣が実在したなんて!」
絵本や書物でしか聞いた事のない聖剣が、この世に実在した事に思わず、
俺のテンションがグッと上がっていく。
「あ、あれ?ライお兄さん...何かテンションがめっちゃくちゃ高いね...
どうしたの?」
「どうしたも、こうしたもないっ!だって、あの伝説の聖剣だぞ!男として、
これ以上の興奮なんてないだろう!」
「じゃろう!ワシもこの話を聞いて、どれだけテンションが上がった事か!」
「ですよね、ダーロット王!これを興奮しなくて何を興奮しろというのさ!」
モカの目の前に俺は人差し指をビシッと突き付け、ドヤ顔をする。
「イヤ...ライお兄さんには、あるでしょう?オッパイとか、オッパイとか......」
「はうっ!?」
モカが嘘を申すんじゃないと呆れてたジト目の表情で、俺の事を見てくる。
「全く...それでダーロット王、私への用とその聖剣と一体どんな関係が?」
「うむ、聖剣を保管部屋に移動させたいんじゃが、あれには『あの魔法』が
かかっておってのう...」
「あの魔法...ああ、あれですか。なるほど、それで私に頼みにきたと
いう訳ですか...」
「そうなんじゃ!じゃから頼むモカ殿、一緒に来てはくれんかっ!」
「来てはくれませんよ!」
「「エエエエェェェェ―――――ッ!?」」
これだけ話を進めたにも拘わらず、まさかの否定の言葉を吐くモカに、
ダーロット王は目を見開いて喫驚し、それにつられて俺も思わず喫驚の
叫声を荒らげる。
「た、頼む!あの魔法がかかっておる聖剣を動かせるのはモカ殿しか
おらんのじゃよ!」
「他に人はいないのですか?」
「魔法部隊達は、急な別件で今はここにいないんじゃよ!」
「それじゃ...帰って来るまで待っていたらいいのでは?」
「イヤ...それが魔法部隊達は少なくとも、後...一週間はここへは
帰ってこないんじゃ!」
「へえ...」
「へえ...って、それだけっ!?」
懸命に話したにも関わらず、あっさりとした返答を返すモカに、
ダーロット王は目を丸くする。
「先程大臣にも言いましたが、今回私は休日なんですよ!せっかくの
ライお兄さんとのお出掛けなんですよ...。ただでさえ、リオ様に持って
いかれているっていうのに...もうこれ以上の時間は誰にも譲れませんわ!」
このダーロット城に来たのも、リオと出会ったのも、元々モカが強引に
連れてきた事が原因なのに、その事は棚に上げてのこの発言である。
「なぁ...モカ...?」
「だ、駄目ですよ!さっきは頭を撫でられ、ついあの大臣の頼みを聞きましたが、
そのせいでまさかの婚約騒ぎ...。次に目を離したら今度はどうなる事やら...!」
「そ、それを言われると何も言えないが...」
しかし俺はめっさ、聖剣を見てみたいんだよ!でもこの流れではその望みも
薄そうだな...。よし!ここは何とか頑張って、モカを説得しなけ―――
「私のみ...添い寝...」
「え...?」
俺が説得の言葉を出す前に、モカの方から妥協の提案が告げられた。
「今日の夜、ロザリーお姉さん達は別にして、私だけの添い寝で手を打ちます!」
「そ、添い寝ですって!だ、駄目ですわ!そんな事、私は許し......モガモガ!?」
モカの提案に異議を申そうとするリオに対し、ダーロット王がその口をふさぐ。
「ちょっとお父様!私に協力どころか邪魔をするなんて、一体どういうおつもり
なのですか!」
ダーロット王にふさがれている手を強引に外し、この行動への不満を訴える。
「許してくれリオよ!あのまま聖剣をほおっておいたら、魔族にいつ狙われるか
わかりはしないじゃ...!」
「うう...確か、それはまずいですわね...」
ダーロット王は、ことの重要さを真面目なトーンの声で語って聞かせ、リオも
それにしぶしぶと納得する。
「...よし!わかった!ただし、今日以外でな...!」
「え...それは何故に?」
「今日はちょっと色々あり過ぎて、ロザリー達の反論に対し相手をするのに
俺の根気が全く足りん!」
モカの一人添い寝と聞いたら、絶対にあの二人は邪魔するであろうし、その不満を
クドクドと聞く羽目にもなるのも、火を見るより明らかだろうしな...。
「はは...確かにそうだね...。うん、わかった!どっちにせよ添い寝はゲットなんだし
問題はないよ!」
モカは少し考えたが、添い寝はいつでもできるとその交渉を受け、ダーロット王の
頼みを承諾する。
「おお!ワシの頼みを聞いてくれるか!ありがとうモカ殿、それにライ殿にも感謝じゃ!
この恩はいつか返すからのう!」
ライに対してダーロット王が、感謝の念をいっぱい飛ばしてくる。
「んじゃ、ライお兄さん、行ってくるから大人しく待っててね!」
「おう!」
「それでは頑張って下さいね、モカ様!」
「何を言っているの?リオ様...貴女もくるんですよ!」
「え...ちょっと、何故ですか!?」
「何故ですか...じゃ、ありませんよ!聖剣を動かすのに貴女の魔力も使うからに
決まってるでしょう!」
「嫌~ですわ~!私はライ様と一緒に~......!?」
モカに引っ張られながら、ライといたいとリオが駄々をこねるが、正論を
叩きつけられて強引に連れて行かれた...。




