四十六話・お試し期間
「別に構わんよ、その婚約...ワシの名を以て許可をだそう!」
「ええぇぇっ!なんでぇぇぇぇ―――――――っ!?」
俺はあっさり婚約を許すダーロット王に顎が外れそうな勢いで絶叫を
荒らげる。
「ロザリー殿とモカ殿にメイリ殿...そして、あのミルナ殿に気に入られる
男じゃぞ!リオとの釣り合いとしては差もない事じゃ!」
「い、イヤ...しかし、俺は一般市民ですよ!それがお姫様と婚約とあっては
ほかのエリート...特に貴族達が黙っていませんって!」
「その件は大丈夫じゃろ?一体、あのミルナ殿のお気に入りにどこの誰が
手を出せるというのじゃ?」
「ですよね。この国でミルナ様に逆らう愚か者はいませんわ!」
ダーロット王はライの言葉に、さも当然な表情で大丈夫発言をし、リオは額に
冷や汗を掻きながら呟く様に述べる。
「あ!それですよ、それ!もし本当にあいつが俺の事を好きだっていうなら、
この婚約は絶対にマズイと思うんですが!」
「う...そう言われると、確かに...」
ミルナにはわるいがその事を利用して、ダーロット王に直訴する様に訴えると、
それに気づいたのか、気を不味そうな顔をしている。
「ライ様!私、先程申し上げましたよね!ミルナ様...来るならドンと来いっと!」
リオは声を高らかに荒らげて腕でドンッと胸を叩くと、ドヤ顔をしてライに
ミルナライバル宣言をする。
「おお...あの男勝りの三姉妹と言われておったあのリオが、こんなに女性として
輝く日が来るとはのう...!」
え...姉妹そろって男勝りなの...?
俺がこの言葉に目を丸くしていると、ダーロット王は何かを決意した表情に
なっている。
「よし!決めた...決めたぞ!この婚約を為しうる為、ワシも協力するぞ!」
「ありがとうございます!お父様!」
ダーロット王とリオはその瞳をキラキラさせ、がっしりとハグをする。
「あ!ミルナお姉さん!」
「キャアアアァァァ―――ッ!
今のウソです!ちょっと茶目っ気が出ただけですから―――――っ!!」
「そそ、そうです!そんな冗談を言ってみたい年頃なだけですわっ!!」
冗談発したモカの言葉に、二人ともそれはそれは見事な誤りっぷりで
土下座をする。
「さっきの熱い包容で誓った言葉はなんだったんだ...?」
二人の手のひら返しの土下座を見て、流石の俺も少し引いてしまう。
「全く、いくら冗談でも言っていい事とわるい事があります!」
「そうじゃ!このダーロット王に冗談を言うとは、冗談では済まない事も
あるんじゃぞ!」
ダーロット王とリオは先程の行動が余程恥ずかしかったのか、バツがわるそうな
表情で誤魔化す様に叫声を荒らげている。
「でも、ミルナお姉さんが来たらこんなモノじゃ、済まないかもしれないよ?」
「う...今のは不意をつかれただけで、本番はちゃんと向き合いますわ!」
「そ、そうじゃ!ワシだって、本番はビビったりせんぞ!」
「へえ...」
「な、なんじゃ、その絶対無理だろという悲しい表情はっ!」
「そ、そうですわ!その捨てられた子猫を見る様な瞳でこっちを見ないで
下さい!」
モカの哀れみな視線に、リオとダーロット王が焦り全開の言い訳言葉を懸命に
発している。
「その態度を見る限り、ライお兄さんの言うように婚約はやめした方が
いいんじゃないですか?」
「それは嫌です!この思いは捨てられませんわ!」
この思いって、パンツ見られただけでしょう!それがなにうえ、ダーロット王も
巻き込んでこんな状況になってんのっ!
...と、ライはリオにビシッと言いたかったが、流石にこの空気感に押されて、
ここは一先ず口を噤む。
「うむ...それでは、これはどうじゃ?婚約(仮)というのは?」
「婚約(仮)...ですか?」
「まあ、簡単に言えば、婚約に値するかどうかのお試し期間というやつじゃ!」
「お試し期間...つまり、デート前後程度の事を色々としてみて、リオ様が本当に
ライお兄さんに好意があるかどうかを試すって訳ね...」
「そうじゃ...。もし本当にリオがライ殿を好いておるなら、ミルナ殿にも臆せずに
戦えるじゃろうて!」
「ま...リオ様も一歩も引かないつもりみたいだし、これが妥当の案かな?
で、ライお兄さんはこの案に反論はある?」
「あるもないも、一般市民の俺に拒否権があると思うか?」
「はは...だよねぇ。じゃ、リオ様もそれでいいわね!」
「そうですね...少しモヤモヤ感はありますが...概ね、それでよろしいですわ!」
リオは納得してなさそうな顔ではあるが、その婚約(仮)を了解する事にした。
「よし!賛同も得られたみたいじゃし...婚約(仮)で話を進めておくぞ!」
「あ!リオ様、一言申し上げておきますけど、私もライお兄さんとは
イチャイチャする予定ですから、そのつもりで!」
リオに対し、モカは自分の思いをビシッと宣言する。
「望む所ですわリオ様!わたくしも負けませんよっ!」
リオもモカに対して同じく、ビシッとした態度で宣言をし返す。
「ふふふ...」
「フフフ...」
「...いう訳じゃ、ライ殿...リオの事を頼んだぞ!」
「さっきはああ言いましたが、やっぱりリオ様の事、キャンセルとは
いかないんでしょうかね...?絶対、何か起こりそうで...」
「ワシに...あの二人をとめられる訳ないじゃろう...?それにワシ...
リオに嫌われたくないし!」
それがあなたの本音かぁぁぁぁ―――っ!
どおりでさっきから、無理難題な王位族の婚約を進めてくると思った!
「あ、そういえば、ダーロット王...ここには私に用があって来たんでしょう?
一体、何の用ですか?」
「お!あまりの展開にすっかり忘れておったわい...」
モカの言葉を聞いて、ダーロット王が当初の目的を思い出す。