四十話・次は私の番です!
「...と、言う訳で、今日は私の番です!」
モカがいきなりそう言い放つと、人差し指をビシッと音が鳴るかの様に、
ライの顔先に突きつける。
「ど、どうしたんだ!いきなりそんな大声で叫んで?それに私の番って...
一体、何が?」
「そんなの決まっているでしょう!私とライお兄さんのおでかけですよ!」
「俺とのお出かけ?」
「そうです!ロザリーお姉さんは、試練のダンジョン...メイリさんは、
クエストのお手伝い...あげくの果て、アーミカさんともお出かけしてるし!」
モカは沸いてくる憤怒を押さえる様にナワナワと拳を震わせて、ライに対する
うっぷんを、次々と大声で叫声していく。
「...と、言う訳で、今日は私の番です!」
そう言った後、再びモカはビシッと音が鳴るかの様に人差し指をライの前に
突きつけた。
「え~面倒くさ――」
「はあああぁぁぁ!なにか、言いましたかぁぁぁぁっ!?」
ライの断ろうとする言葉を遮り、モカは魂を握り潰しそうな鬼の形相で
ギロッと睨みつけてくる。
「い、いいえっ!お出かけ嬉しいなって言いましたっ!!」
モカの鬼の形相に心臓がとまるか思うくらい喫驚し、俺は考えるよりも早く
口が肯定の言葉を述べていた。
「よし!それでいいわ!んじゃ、時間も勿体ないですし...早速とお出かけ
スタートしますよ、ライお兄さん!」
「了解でありますっ!」
そういうワケで、今日はモカと一緒にお出かけする事になった...。
――――――――――
「さて...勢いで町の中に来てはみたけど、これからどうしよっかな?」
「おい!予定もなく、お出かけとか言っていたのか!」
モカの無計画な行動に、俺は思わずツッコミを入れる。
「はは...そう怒んないでよ。じゃあ、ライお兄さんはどこか行きたい
場所ってある?」
「俺の行きたい場所...?そうだな、俺の行きたい場所は...掘り出し物
市場――」
「却下!」
「何でっ!?」
刹那の如き速さで否定の言葉を吐くモカに、俺は喫驚のこもった声で
叫声する。
「どうせ、乳オバケの所に行きたいだけでしょう!」
「そ、そんな事は、な、ないぞ!ふぃ~ふぃ~♪」
「その顔と態度でバレバレだよ...!」
顔一杯に汗を掻き、吹けない口笛を吹いて誤魔化そうとするライの顔を、
モカはジト目で睨んでいる。
「じゃあ、言い出しっぺのモカが決めてくれよ!」
俺は自分が聞いたくせにと、言わんばかりの口調でモカにそう訴える。
「う...わ、わかったわよ!そうね...どこがいいかな......?メイド長や
ロザリーお姉さんと被りたくないし...」
モカはロザリー達と違う所はないかと、一生懸命考え模索している。
「あ!あそこはどうかな!」
「あそこ?」
「うん、どうかな?」
「おいおい...どうかなって言われても、それだけじゃわかんないだろ?」
「はは...ゴメンゴメン♪」
ライの困惑な言葉に対して、モカは苦笑しながら謝ってきた。
「ま...そこは行ってみてのお楽しみって事で...じゃ、行こうか♪」
モカは屈託のない笑顔を浮かべて、ライを引っ張って連れて行く。
――――――――――
「じゃじゃ~ん!お待たせ、目的地に無事、到着です~!」
「.........」
「...って、あれ?どうしたのライお兄さん?そんな変な顔をしちゃって?」
そりゃ~変な顔にもなりますよ...。だって、だって......。
「だってここって、ダーロット城じゃないかぁぁぁぁぁ―――――――っ!?」
「え...ダーロット城ですけど、それが何か?」
「イヤイヤイヤ!普通...じゃ、行こうか♪のノリで来る場所じゃないんだよ、
ここってさ!」
「え...私はいつもそんなノリで来てますけど?」
何故、そんなに驚いているのか全く理解できないモカが、不思議そうな表情で
ライの顔を見ている。
「と、とにかく...俺は嫌だぞ!絶対に城の中になんて入らんからな!」
俺はもしかしたら不敬罪とかになるんじゃという思いに駆られ、必死に帰ろうと
躍起になる。
「...って、いつの間にかモカさんが門番達の兵士達の所にっ!ちょっと聞いてよ
人の話しっ!」
俺は叫声を上げ、必死に否定の言葉で呼びかけるが、一方のモカは聞く耳無しで
門番の兵士達と交渉している。
「ねぇねぇ、今から城の中に入って見学してもいいでしょう?」
「まあ、モカ様だけでしたらいいのですが...」
そう言うと、門番の兵士の一人がライの方へと視線を向ける。
「そうですよモカ様!どこの馬の骨かわからない者を城の中に入れる
なんて...!」
もう一人の門番の兵士もライの事を値踏みしながら、ジロジロと見てくる。
「ああ、あの男性...ライなら大丈夫よ。私やロザリーお姉さん...それに
メイド長との知り合いだから...それとライってね、ミルナお姉さんの...
...ゴニョゴニョ」
「「ミルナ様のぉぉぉ―――――っ!?」」
門番の兵士達がモカから何かを告げられた瞬間、顔から色がなり、小刻みに
ブルブルと体が揺れ始める。
「お待たせ~!」
「なあ、やっぱ帰ろうぜ!あの門番の兵士達も何か困ってるって感じじゃんか?」
門番の兵士達の表情を見て、何か俺みたいな一般市民が来たせいで困ってそう
だなっと思い、モカに帰ろうコールを述べる。
「そ、そんな事は、ありませぇぇぇぇ――――――――んっ!」
「そそ、そうでございます!あのミルナ様のお知り合いに不届き者が
いる訳がありません―――――ッ!!」
「だから、帰らないでくださあああぁぁいっ!城の中にお入りなって
下さいぃぃぃぃぃぃ―――――っ!!」
「ミルナ様には、この事はご内密にお願いしますぅぅぅっ!どうかぁぁぁ、
お内密にぃぃぃぃぃ―――――っ!!」
ライが帰ろうと言った言葉が耳に入った門番の兵士達が、さっきより表情の
色が抜け、血相を変えながら必死に城に入ってくれるように直訴している。
「お前...この兵士達に何を言ったんだ!」
「え...?ただ、ライお兄さんがミルナお姉さんの知り合いだよって
言っただけだよ?」
そ、それだけか!それだけで、あの怯え方なのか...!?メイリの時も
兵士達が怯えたていたけど、ミルナは遥か上の怯えた方じゃないか......。
「さ、お城の中に行こうか!ライお兄さん!」
「お、おう...!」
俺がここで帰るって言うと、ショックであの世に行きそうな門番の兵士達を見て、
モカの誘いを断る事もできず、仕方がなく一緒に城の中に入る事にした...。




