三十六話・メイリの説教
「ライ、ライ!しっかりして下さい!」
「う、うう~ん...」
「あ!やっと起きましたか!大丈夫ですか、ライ?」
「あれ?どうして俺はこんな所に?」
「それは私が聞きたい事ですよ!いつまで待っても来ないから
心配になって探しに来てみれば、こんな所で寝ているんですもの!」
「はは...ゴメン心配かけて、今度からは気を付けるよ!」
俺は今の状況がよくわからないが、メイリが激おこ顔なので
取り敢えず、謝っておく事にした。
「あれ?そういえば、ユユナは?」
「ユユナ?」
「うん、さっきまで一緒にいた奴なんだけど?」
俺はキョロキョロと周りを見渡すが、ユユナの姿はどこにもなかった。
「ユユナ...その名前の感じ、その人物はもしかして...女性の人でしょうか?」
「え...あいつが女?」
メイリが俺の顔をジト目で凝視しながら、ユユナの事を聞いてくる。
「あはは、違う違う♪俺も勘違いしたんだけど、あいつ...ユユナは男だよ!」
「そ、そうなんですか、ユユナさんは男性でしたか!」
ライのユユナは男の子発言に、メイリは安堵の胸を撫で下ろす。
「でもいないって事は、あの迎えに来てたナイスバディーのキジュさんと
一緒に帰ったのかな?」
「ナイス...バディー?」
ライの口から洩れるナイスバディーの言葉を聞いたメイリのこめかみに
青筋が一つ浮かぶ。
「め、メイリ?急にどうした!その笑っているのに笑っていない表情っ!?」
微笑んでいるのに能面の様な表情でこちらを見てくるメイリに俺は喫驚し、
困惑した表情で冷や汗を掻いてしまう。
「ふふ...そのナイスバディーさんの話しをじっくりと聞きましょうかしら...」
メイリは不敵な笑みを浮かべて、ジリジリとライの方へ近寄って行く。
「え...何故、そんなどす黒いオーラを纏って、こっちの方に近寄って来るの?」
メイリから発される黒いオーラに、俺は思わず後退りして逃げる体勢に入る。
「逃がしませんよ♪」
しかしその瞬間、メイリの右手に後頭部を掴まれ...そして持ち上げられる...。
それから一時間程、メイリさんの謎の説教タイムが続いた......。
「...っという事です...!これで、この事は...わかりましたよね!」
「はい...本当に気を付けますから、もうお説教は許して下さい...」
「いいえ!まだ、半分しか...」
「嗚呼!ほ、ほら!もう屋敷に着きましたよ!」
俺はメイリに向かってこう言うと、馬車の窓から見える屋敷を指差す。
「しょうがありませんね...。では、この続きは後日お話し致します!」
「は、はい!わかりました!」
俺はこの説教を早く終わらせる為、完璧な返事をメイリに返し、
そして脱兎の如き速さで、屋敷に向かってダッシュする。
「お、ライ。やっと帰って来たんだ?随分と遅かったね?」
「はは...ちょっと色々あって、メイリに...」
「え...メイリ?ライってば、何故にメイド長の事を呼び捨てに
してらっしゃるの?」
ロザリーはその事に喫驚し、目を丸くして固まる。
「あ~これはね、俺がメイ―――」
「嗚呼、わかった!
さては、あの行き遅れババアに何かされたんでしょうっ!」
「......誰が、行き遅れババアですか?」
「で、出たな、行き遅れ!よ、よくもライを襲ってくれたな!」
ロザリーは呼び捨ての事実にメイリに在らぬ疑いをかけ、叫喚する。
「ハア...何を言ってらっしゃいますの?」
「だって、昨日までメイド長呼ばわりだったのに...屋敷に帰ってきたら、
さん付けを越えて、メイリって呼び捨てにしてるなんてそんなの絶対に
おかしいじゃない!」
ロザリーはナワナワと体を震わせて、困惑の表情でメイリに強くそう述べる。
「これはライがそう呼んでくれって...」
「ええ!ライの事を呼び捨てで呼んでる―――ッ!?」
メイリのライ呼び捨て発言にロザリーは目を見開いて、喉を痛めそうな
驚き全開で絶叫する。
「お、おのれ...あれだけ淑女がどうたらとウチらに説教したくせに、
自分は抜け駆けするとは......くそ!」
ロザリーは両手と両膝を突いて、その場に頭を垂れている...。
「ハア...やれやれ」
メイリはこの状況に乾いた嘆息を吐いて、その後...ロザリーにゆっくりと
ライとの経緯を詳しく話して聞かせた...。
「な~んだ!ライの意地悪で、呼ばなきゃいけなくなったのか!」
「そうです、だからロザリーさんが思っている事は、全くありませんから!」
「そっか、それじゃメイド長とは何もなかったんだね!」
「うん。そうだね、何もなかったよ...。
メイリの初めてオッパイもみもみの件は、あやふやになっちゃったし...うん」
何もなかったと語るメイリに俺はモヤっとして、少し意地悪を言ってしまう。
「ちょ、初めてオッパイもみもみ!?何よそれ!さっきの説明ではメイド長は
そんな話は言っていなかったけど!」
突然と沸いた事実に、ロザリーは目を丸くして慌てふためいている。
「そ、それはクナが酒に酔った勢いで言ってただけで、私からはそんな事は
言ってないからです!」
「あれ?そうだったっけ?でもあの時、メイリ「ありがとう」って、
言いかけてなかった?」
「い、言いかけてません!」
ライの記憶にあるメイリが発した発言を断固と否定してくる。
「そんな事よりロザリーさん達は、夕食を食べる準備をなさって下さい!
私もこれからお食事を運ばなきゃいけませんので、こ、ここで一旦、失礼を
させてもらいますっ!」
そう言うとメイリはダッシュでスタスタと足を早く動かし、厨房の方へ
向かって行く。
「あ...逃げた!己、その慌てよう...!予想以上にイチャコラしてたなっ!」
物凄い早さで歩いて行くメイリの後ろ姿を見ながら、ロザリーは無念な表情で
悔しがっている。
「まあ...いいわ。何があったを聞くのに、まだ証人はここにもう一人いる
ワケだし...」
ロザリーが獲物を追う獣の様な視線をライに向けてきた。
「さあ、洗いざらい話してもらうわよ...ふふふ」
「はわわ...お、お手柔らかにお願いしますね...ロザリーさん...」
ニコニコした表情だが黒いオーラを纏っているロザリーに俺は身震いをし、
無駄な手加減を直訴する...。




