三十五話・ナイスバディー
それから数時間が経ち、屋敷に帰る時間がやって来た......。
「お、もうこんな時間か...。なあ...そろそろ夕方になるが、お前は
まだ大丈夫なのか?」
「あ、本当だ!」
ユユナも時計塔の方を見て、そんな時間かと驚いている。
「俺は人を待たせているのでもう行くけど、お前はどうするんだ?」
「え、うん。わた...俺の方ももうすぐ迎えが来ると思うから、それまで
ここら辺を散歩でもしてるよ...はは」
ユユナはそう口にはしてるが、曇り空の様な表情でニガ笑いを
浮かべている。
「迎えが来るのか...それなら一人にしても大丈夫かな...」
「う、うん、そういう事、だからライも気にせずに帰ってもいいよ...」
「そっか、それじ...ん...嗚呼!あの屋台はっ!?」
「え、あの屋台がどうしたの?」
ユユナにわかる様に、ライはワザと大きな声を上げて
屋台を指差している。
「あの屋台っていつ出すかわからないらしく、伝説の屋台って
呼ばれてるんだってよ!」
「へえ、伝説の屋台か...」
「これは、もう少しここにいなきゃ行けないな!」
「え!」
「ほれ、ボーッとしないで買いに行くぞ!」
「あ、ちょっと...待って!」
伝説の屋台とやらへダッシュするライの後を、慌ててユユナが
追いかけて行く。
――――――――――
「おお!やっぱ伝説の屋台の味は最高だな!」
「......」
「なんだ、その味はお前には合わなかったか?」
「ううん。そうじゃない...」
「じゃ、どうした?そんなどんより雲のような顔をして?」
「あの屋台が伝説っていうの嘘でしょう...?」
「う...」
「多分これ...私を心配しての行動なんだよね?」
思いっきりバレてる...。まあ、さっきの驚いた声も表情も、
結構ワザとらしかったしなぁ...。
「はは...やっぱり、あんな表情をしたお前を置いて帰るっていうのが
何となく忍びない感じでさ...可愛い嘘だと思って勘弁しろ!」
「ライ...」
「もう、そんな顔をするなって...!せっかく後で怒られるの決定で
残ったんだぞ!だからさ...パッと笑ってくんなましな、ユユナ君!」
「はう...!?」
俺はそう言い終わると、ユユナの頭にポンッと手を乗せわしゃわしゃと
撫で回しながら屈託のない笑みを浮かべる。
「ライ...エへへ...ありがとう!」
ライに撫でられ、ユユナは頬が紅に染まりながらお礼の言葉を言った。
「ユユナ様~ユユナ様~!」
そんなやり取りをしていると、遠くの方からユユナを呼ぶ大きな声の人物が
こちらに向かって走って来る。
「ハアハア...お、お待たせしました!ユユナ様っ!」
「お迎え御苦労様です、キジュ!」
急いで駆けてきたこの人物は息を切らしながらも、ユユナに
お迎えの挨拶を交わす。
「ん!貴様っ!誰の頭の上に手を置いているのだぁぁっ!」
その人物はそう言うが早く、腰に下げている剣を抜いてライに向け
斬りかかってくる。
「おわぁ――っ!?」
俺は間一髪の所で、素早く身を交わし斬撃を交わす。
「己、痴れ者がぁぁぁ―――っ!」
そう叫ぶと剣を返し、ライの避けた方向に斬りかかる。
「どわ~!この......当たるかっ!!」
俺はこの斬撃も、皮一枚分の間隔でうまく交わした。
「この!痴れ者の分際でちょこまかと避けおって!」
「避けて当たり前だ!そんな速さの剣で斬られたら、一発であの世に
昇天しちまうっていうのっ!」
「ならば、さっさと当たってあの世に昇天するがいいっ!」
そう言うとその人物は気合いを込め、何かの剣義を放とうとしている。
「コラ!キジュやめなさい!ライは私の恩人で、友人なのですよっ!」
キジュと呼ばれた人物がユユナの声を聞き、慌ててライに放とうとした
剣義をギリギリの所でとめる。
「すす、スイマセン!ユユナ様の恩人に剣を向けてしまうとはなんという失態!
....こうなったら、この愚か者...死んでお詫びをしますっ!」
そう言うとキジュは、自分の剣を首に持っていき自害しようとする。
「ちょ!ストップ、ストップ―――ッ!!」
その行動に俺は慌てふためき、キジュの自害に必死に待ったをかける。
「ぐぐ...それでは、私はどうやってお詫びをすればいいのですか!」
涙目をしてそう訴えてくるその人物...キジュさんを、
俺はジッと見つめる...。
髪型はロングヘアーに色はダークグレー、
瞳の色は髪色より、黒に近いグレー色だ。
そして...肌の色は褐色で耳は尖っている。
この基本的な姿を見てわかる様に、種族はダークエルフみたいだ。
身長は俺と同じくらいで、見た目は......
うん、ボンッキュッボンッ!のナイスバディーの持ち主だ!
......なので、俺がキジュさんに望む事は、だた一つだけっ!
「そ...それは、君のその豊満なオッパ――――イタアァァッ!?」
「ライ...今、何を言おうとしたの?」
ライの腕を思いっきりつねり、ユユナがジト目で見てくる。
「え...?だから、その豊満なオパアアアァァイイイタタタ―――ッ!!」
懲りずに同じ言葉をいようとするライの腕をさっきより強くひねりあげる。
「ちょっと!何をする、ユユナ君!」
「何をじゃないっ!ライ...貴方、今物凄くエッチな事を言おうと
していたでしょうっ!」
ライのエロい行動に、ユユナが目を丸くして叫声を上げている。
「そんなの当然だ!こんなナイスバディーが目の前にいるのだぞ!
男のお前ならわかるだろう!これはもう...揉......ムシギャッ!?
男の魂がこもった言葉を語る前に、ユユナが思いっきり俺の頬に
ビンタを食らわせる。
「ふん、そんなのわかる訳ないじゃないっ!だって、私は...」
「あの...ユユナ様、よろしいのですか?恩人に対してこのような......」
オロオロと慌てた表情で、ユユナに思いっきりビンタをされて、
気絶しているライを見ている。
「い、いいのです!こんなハレンチな事をするライなんて...!」
頬を膨らませ、気絶しているライの事を見つめながら、
ユユナはプンプンと怒っている。
「でも、このままにはしていけないか...キジュお願い!」
気絶しているライをキジュは近くの木の下そっと置く。
「......じゃ、またねライ!」
ユユナは、手を振ってライに別れの挨拶をするとキジュと一緒に
その場を去って行く。
「あ、キジュ...貴女、後でお仕置きですからね!」
「ヒャァァァ―――――ッ!!
やはりさっきのライ様への失態を、怒っていらしゃるぅぅぅぅ―――っ!?」
突然、ユユナから告げられるお仕置き宣言に、キジュはさっきのライへの
振る舞いに憤怒していると叫声を上げて喫驚する。
勿論、このユユナの怒りは別の所にあるのだが...キジュは気づいていない...。




