三十四話・屋台巡り
「ふむ...これも、中々うまいな!」
「うん。この控えた甘味が絶妙だよね~!」
「あ、ライ!あそこの屋台を見てみてよ!色んな味のフルーツを
パンでくるんで揚げちゃうんだって!」
ユユナは楽しそうな表情で興奮しながらライの腕をギュッと掴み、
目的の屋台の方向に指を差している。
「お~!あの見た目...いかにも美味しいって感じだな!」
「じゃ、次はあれで決定だね!」
ユユナがその言葉を発すると、その屋台に向けて早足でかけて行く。
「こら~!ゆっくり歩かないの!ライが来なきゃ、あの揚げたフルーツパンが
買えないでしょうが~!」
「うわ!ちょ、待てって、そんなに引っ張ると転んじゃうから~!」
俺の元に駆け足で戻ってきたユユナが腕を掴んだかと思うと、
強引に屋台の方へ引っ張って連れて行く。
「お!いらっしゃい...!」
「おっちゃん、俺は...この酸っぱい系果物を...で、ユユナお前はどれにする?」
「え~と、ん~と、そうだな......?」
どのフルーツを入れるのがいいかと聞かれたユユナは、どれがいいかなぁと
頭を悩めて考えている。
「よし!決めた!おじさん、俺はこの...シロップ漬けのやつでお願い!」
「あいよ!んじゃ、パンを揚げるから、しばらく待っててくれや!」
そうおっちゃんが言って数分後......。
「お待たせ!熱々だから気をつけなよ!」
「あちちち...!」
「なにやってんだよユユナ、こう持つんだ...アチチッ!」
俺とユユナが、おっちゃんから熱々なフルーツ揚げパンを受け取ると、
その熱々さに喫驚し、フルーツ揚げパンが二人の手のひらの上で踊っている。
「そんなに熱かったか?ほれ、もう一枚ずつ包み紙をやるから使いなよ!」
それを見ていたおっちゃんが、屋台下から二枚の包み紙を取り出し俺達にくれる。
「サンキューおっちゃん...。お!これなら熱くない!」
「うん...熱くないね。ありがと、おじさん!」
おっちゃんに礼を言うと、ライとユユナはその場を離れて行った。
「んじゃ、いただきますか...パク!おお、このフルーツの甘酸っぱさと...パク...
揚げたパンがバランス...パク...良く混ざって...パクパク...うん...これは旨い!」
「あ...美味しい!ねぇライ!こっちの方もとっても美味しいよ!」
「ほほう、どれどれ...ひと口貰うぞ...パク!」
「あ...!」
「おお!確かに旨いな!このシロップ漬けのフルーツも中々...
...って、どうしたボーッとした顔をして?」
「ううん、な、何でもないよ...あはは!」
「そっか、ならいいんだが?」
うう...なに、このモヤっとした変な気持ち...!単に自分の食べた部分を
ライに食べられただけなのに、何でこんなにも私はドキドキしちゃってるのよ!
今まで感じた事のない、ワケがわからないモヤモヤした気持ちにユユナの心は、
振り回され、困惑してしまう。
「う、うん...取り敢えず、この気持ちは今は気のせいって事にしよう!」
ユユナは屋台の味を楽しむ為に、この変な気持ちの問題は
後回しにする事に決めた。
「おい、どうした?小さな声で何かぶつくさ言ってたみたいだが...?
熱過ぎて、口の中でもヤケドでもしたのか!」
「ううん、大丈夫!ヤケドはしていないから。ちょっと考え事で
ボーッとなっていただけ...」
「そっか...それならいいんだ!」
「心配してくれてありがとうね、ライ!」
そんなやり取りをした会話の後、ライとユユナはフルーツ揚げパンを
美味しく完食する。
「ぷは~やっぱり揚げた物は美味しいな!」
「うん、美味しいよね!でも油のせいでカロリーが気になっちゃうけどね!」
「はは...そうだな!」
ユユナの言葉を聞いて俺は自分のお腹をそっと触り、思わず苦笑する。
ま...カロリーなんて気にしていたら、美味しい物なんて食べられませんよ!
俺は心の中で、そう開き直る。
「んじゃ...ユユナ、次はどれがいいと思う?」
「今、揚げた物を食べたんだしさ、次は軽めのやつなんかどうかな!」
「軽めか...じゃあ、あの屋台の食べ物なんてどうだ!」
「どこどこ...あ、あれだね!見た所...軽めの感じみたいだね...!」
「よし!次はあれで決定だな!」
「うん!そうと決まったら、あの屋台までダッシュだよ!」
ユユナは楽しそうに笑いライを手招きしながら、
次の屋台に足を早め走って行く。
それから俺とユユナは、色んなお菓子系の屋台を食べ歩き周り...
屋台のそれぞれの味に舌鼓を打っている。
そして、数時間後.........。
「うぷ...さ、流石に甘い系ばかりはちょっとキツかったかな...。
少し胃袋に休憩を与えるとするか...」
俺はお腹を擦りながら、屋台近くにある休憩所の椅子に座る。
「あれ、ライ?なんで休憩してるの?」
「それは、胃袋が少し休憩させてと叫んでるからだよ!」
「何それ、だらしないなぁ~!」
ユユナは、だらしなくお腹を擦っているライの姿を見て、
溜め息が聞こえてきそうな声で、ニガ笑いを浮かべている。
「そんな事を言われても、動けんものは動けんのだ!」
「そっか...わた...俺はまだまだ食い足りないって感じなんだけど...
しょうがない!ここでお詫びの件は終了としますか!」
「まだまだ食い足りないって...マジか、スゲエな!それじゃ、ほら...」
まだまだ満足しないという表情をしたユユナに驚く俺は
そっと、一枚の金貨を手渡す。
「え、これ...?」
「それだけあれば、残りの分も満たされるだろう?」
「流石にこれは駄目だって、この間の銀貨も返せていないのに...」
ユユナは頭の垂れ、シュンとした表情でこちらを上目遣いで見てくる。
「あれは、貸したんじゃない、俺が奢ったんだ!
そして...その金貨もお詫び続行の奢りだ!だから、気にしないで使ってくれ!」
「でも、それは...」
ライの好意に対し、ユユナは遠慮の見える表情で見てくる。
「さっきまであんなに俺に奢られまくっていた癖に...何をそんなに
遠慮する事があるんだ!」
「何か違うのよ...ライに奢って貰うのと直接に手渡されて、
自分で使うのとじゃ......」
ユユナは自分自身の正論をライに語り述べている。
「はは...難儀な性格なんだな。
それじゃ、これならどうだ?いつかさ...お前ができる範囲の事で、
俺にこの金貨や銀貨の借りを返してくれるという事では!」
いつまでふさぎ込んでいるユユナに対し、俺はそう述べると
ニカッと微笑んで、サムズアップをする。
「わた...俺にできる範囲の事でか...うん、わかった!
この借り...絶対返すからっ!」
「おう!期待しないで待ってるぜ!」
「コラ!そこは、期待はしててよねっ!」
「はは...スマン、本当は期待してるぜ!」
「うん、期待してなさいな!」
ユユナは、人差し指をビシッとライの前に突き出し、
高らかに声を上げ、期待しろと叫声する。
それからユユナは、喜色満面の表情を浮かべ、色々な屋台を巡っている。
俺はその姿をテーブルで休憩しながら、ノンビリと眺めている。




