三十三話・ローブの少年
「ぷはぁ~うまい!」
俺はオッパイの件から何とか立ち直り、屋台通りをあっちこっちと周って、
色々な味を楽しんでいる。
「さ~て、次はどこの屋台の味を楽しもうかな!」
......ん?
次の屋台の味を求めて歩いていると、俺の目の前に屋台をジッと見つめている
謎の人物が目に入る。
「あそこで黙って屋台を見ているローブを纏ったあいつ...
何かどこかで合ったような...?」
目を瞑り、頭の中の記憶の引きだしを次々と開けていく事、数秒後......。
「嗚呼!思い出した!あの時の無銭飲食のローブの少年だ!」
俺は思い出すと、速攻でそのローブの少年に近づいて行く。
「よ、少年!そんな所で何をボーッとしてるんだ?」
「あ、貴方はこの間の...おっさん?」
「だ、誰がおっさんだ!俺はまだピチピチの十代だぞ!せめて名前か、
お兄さんって呼べやぁぁぁっ!」
俺はメイリが聞いてたら怒りそうなくらいの勢いで、十代である事を
ローブの少年にアピールをする。
「だって、俺...貴方の名前知らないし...」
「あれ?名乗ってなかったか?あ!そうそう思い出した!名乗りも何も、
気づいたらお前...いつの間にか、いなくなってたんだった!」
「あの時わた...俺、急ぎの用があったから」
「急ぎの用ねぇ、ま...それなら仕方がないか...」
んじゃ、改めて...俺の名前は『ライ・シーカット』って、名前だ!
気楽にライって呼んでくれ!」
気を取り直して、自己紹介をそのローブの少年にする。
「ライ...」
「...で、お前の名前は?」
「内緒...」
「ちょ、お前!人に名乗らせておいて、自分は内緒ってぇ!」
ローブの少年の内緒発言に、俺は思わず目を丸くしてしまう。
「わた...俺は名乗るとは言っていない。貴方が勝手に名乗っただけ...」
「う...た、確かにな...!」
ローブ少年に正論を言われて、俺は言葉を詰まる。
「でも、あれを買ってくれたら教えてもいい...!」
ローブ少年が指差す方向を見るとそこには、ふわふわ雲の様に軽く、
そして甘~い天使の綿菓子~♪と、看板に書いてある屋台がライの目線に入る。
「あれは、綿菓子か...?」
「へえ...あの食べ物、綿菓子って言うんだ?」
「なんだお前、食べた事がないのか?」
「うん......食べた事ない...」
ローブ少年はライの言葉を静かに聞くと、コクンッと頭を下げる。
「わかった、買ってやるから名前の件忘れるなよ!」
俺はローブ少年に約束の釘を刺し、綿菓子を買いに急ぎ足で、
屋台にダッシュして向かう。
「ほれ...買ってきたぞ!」
買ってきた綿菓子の一つをローブ少年に手渡した。
「あ、ありがとう...パク...!パクパクパク...」
手渡された綿菓子を心待ちにしていたのか、目をキラキラさせて
静かだが食べるスピードは早く、どんどん和菓子が口の中へと消えていく。
「どうだ、うまいか?」
「うん...!」
俺の問いにローブの少年は屈託のない笑顔で答えると、
再び、綿菓子を食べ始める。
「はあぁ...おいしかった!」
ローブの少年は、頬を緩めた満足げな表情をしている。
「...で、そろそろ教えてくれないか?」
「え...何を?」
「え...何を?じゃねえ!名前だよ、名前を教えてくれと言っているの!」
ハテナ顔をしているローブ少年に、俺は大きな叫声を上げる。
「はは...ゴメン、ゴメン。冗談です...冗談。
え~と、わた...俺の名前は『ユユナ・スターフィールド』っていいます。
まあ、ユユナとでも呼んでよ!」
「ユユナ?何か、女みたいな名前だな?」
「ちょっとライ!お、男の名前に対して、女みたいは
ちょっと失礼だと思うんだけどっ!」
ユユナは女扱いされるのが余程イヤなのか、頬を膨らませて
ムムッという表情で怒っている。
「スマン、スマン!そんな怒んなって!」
「いいや、許さないね!
お詫びに、あれを買ってくれるまでは!」
ユユナの指差す方向のお菓子系の屋台が並んでいた。
「ふ...了解。じゃ、お詫びをさせてもらうとしますか!
善は急げだ!ほれ...行くぞ、ユユナ!」
「うん!」
ライがユユナに、手でクイッと合図を出した後、二人は屋台に
向かって走って行く。




