三十二話・無駄に大きな新品さん
「こちらのギルド銀行カードに、報酬の方を入れておきました!
それでは、どうぞお受け取り下さい!」
ライは受付嬢からギルド銀行カードを手渡され受け取る。
「おお、この中にお金が溜まっていくのか!」
受け取ったギルド銀行カードを、表や裏にと何度も凝視すると、
心が何とも言えない不思議な感覚になり、思わず笑みが口から洩れる。
「あ、そうだ!メイリの分け前をスッカリ忘れていたよ!
あの~これ、どうやってお金を下ろすんですか?」
「あそこを見て下さい。箱みたいな物がありますでしょう?」
「あそこ...箱...あ!あの鉄の箱ですか?」
「はいそうです!あれは『ギルド銀行硬貨箱』と言いまして、まず最初に
ギルドカードを箱に差し込んで、次にギルド銀行カードを同じく差し込みます。
そして、下ろしたい金額のボタンを打ち込みますと、その金額の硬貨が
取り出し口という所から出てくるという仕組みです!」
受付嬢はライの質問に、優しく丁寧に説明してくれた。
「なるほど...ありがとうございます!じゃ、メイリ!
ちょっと、お金を下ろしに行ってくるね!」
「待ってライ、私は報酬の分け前は別にいりませんよ!」
お金を下ろそうとするライの動きをとめて、メイリは報酬は
いらないと述べる。
「イヤ、そういう訳にはいかないって!
俺も冒険者の端くれ...クエストの分け前はキチンとしておかなきゃ!」
「ライ...そうですね、冒険者暗黙のルールってやつですね。
はい、わかりました!それでは遠慮なく、報酬の分け前...頂きます!」
メイリは冒険者暗黙のルールの事をふと思い出し、素直に報酬を
貰う事を了解した。
「うん、それでいい...んじゃ、今度こそお金を下ろしてくるね!」
俺はそうメイリに告げるとギルド銀行箱に早足で向かい、
受付嬢の言った通りに操作してお金を下ろしてきた。
「はいこれ、メイリの分け前だよ!」
「金貨、五枚、大銀貨一枚...確かに受け取りました!」
メイリは、受け取った報酬をポーチみたいな入れ物にしまい込んだ。
「さて、思ったより時間が余ってしまいましたね?」
「そうだね...屋敷に帰る時間になるまで、後3時間くらい...か?」
メイリに時間の事を言われて、ギルドの壁にかかっている時計に目線を向けて
時間を確認しすると、屋敷に帰るにはまだ早い時間だった。
「さて...結構な時間の長さだけど、どうしようか?」
「そうですね...それじゃ、これから帰る時間まで私と一緒......ハウッ!」
「エヘヘ...そんなに時間が余ってるなら、私に付き合えやぁぁ~~っ!」
突如、後ろから誰かにメイリが抱きつかれ、抱きついた人物が下卑た声で叫ぶ。
その抱きついてきた人物をよく見ると、クナと呼ばれていた女性だった。
「ちょっと、クナ~ッ!いきなり後ろから...抱きつかないでっ!
アンッ!こ、こら!どこを触っているんですかっ!」
「どこをって...乳だよ、乳!この無駄に大きいなオッパイさんだよ!」
クナがその言葉に合わせ、メイリの胸を掴んだ指を巧みに動かす。
「む、無駄に大きいって、失礼なっ!」
「だってよ...異性に揉まれた事がないんだろ?二十代前半の女がよ~
なぁ~もうすぐ適齢期が終わるメイリさん~♪」
「何の適齢期が終わりだぁぁ――っ!」
憤怒するメイリを軽くスルーし、クナは嫌味のこもった言葉を発しながら、
楽しそうにゲラゲラと笑っている。
「あ~っ!でもまあ、オッパイの方は何とかなりそうか...?
なあ、ライとやら♪」
「ハッ!喜んでっ!」
俺はクナさんの言葉に見事な敬礼をして、清々しい笑顔でそう答えた。
「え、それはありがと...って、こら!何を言わせるんですか!
それにこの匂い...クナ、あなた酔っているでしょう!」
「じぇ~んじぇん、酔ってませ~ん♪ハアア~ァァァ~!」
「うぷっ!?こんなにアルコール臭くて、何が酔ってませんよ...ゲホッゲホッ!」
メイリはクナに思い切り、アルコール臭い息を吹き掛けられる。
「ガハハハハ!さあ~ライとやら!今の内だ!未だ異性に触れられた事のない、
この無駄に新品なオッパイに...
初めてという名の異性もみもみアタックを与えてあげなさいなっ!」
クナは完全に酔っぱらいモードに突入しており、恐らく自分でも
何を口走っているのかわかっていない叫声を上げている。
「新品オッパイ...に...もみもみアタック...だと...!」
「新品オッパイ」と「異性もみもみアタック」いう響きに何だか感涙してしまい、
この二つの言葉が俺の頭の中で、何度も何度も繰り返し流れている。
「ガハハハハ!どうした、ライとやら!何をボケッと突っ立っている?
ほら、メイリの新品オッパイさんが待っているぞぉぉ~♪」
「キャッ!ちょ...クナ...そんな...に強く...揉まない...でよ!」
クナは下卑た笑い声を上げ、ライを挑発するかの如くメイリのオッパイを
グニグニと揉みしだいでいる。
『この...いい加減にしないっ!アイスゥゥ・ロォォォ―――クッ!!』
「ッ――――――ッ!?」
メイリが魔法を詠唱した瞬間、クナの体が一瞬でカチコチに凍りついた。
「全く...この娘は...。ふう、しょうがない...スイマセン、私はクナを
開放しておきますので、ライは3時間...どこかで時間を潰してきて下さい」
「うん...わかった...」
「ん...?どうかしましたか?何か顔色が優れないような...?」
「そ、そんな事ありませんよ!気のせいです、はい!」
「それなら、いいのですが...?」
「じゃ、俺は町に繰り出して来ますね!」
俺はそう言うが早くギルドの外に向かって脱兎の如き
ダッシュで出て行った。
俺は走りながら心の中で、『新品オッパイ、異性もみもみアタック』の件は?
...っと、何度も何度も呟き続けていた......。




