三話・謎の少年
「本当、大事に至らなくて良かったよ!」
その人物...少年が、爽やかな笑顔で
ゆっくりと歩き、ライ達のそばに近づいて来る。
「ありがとな。おかげで助かったよ!」
俺は安堵の表情で、その少年に感謝を告げる。
「所で君達、こんな森の中で何をしていたんだい?」
「俺達か?俺達は、クエ――」
「わ、私達はクエストの依頼、ゴブリン退治中です!」
ライを遮って、リィーナが身を乗り出し、
代わりに少年に答える。
「お兄さんもクエストでここに来たんですか、ですか?」
同じくアルテもライを遮って、息も荒く
興奮気味に質問する。
「僕がこの森に来た理由は...LV上げが目的かな?」
少年はニコッと微笑み、アルテの質問に
優しく答える。
「でも一人じゃ、きつくありません?」
「はは...正直ちょっときついかな...」
少年は頬を掻き、困り顔で笑う。
「じゃあさ~じゃあさ、私達と一緒に戦わない?」
「それはありがたい申し出だけど、本当にいいの?」
少年は嘆願した表情で本当かどうかを
確認してくる。
「勿論、三人より四人の方が私達も効率がいいしね、
それでいいよね。お姉ちゃん、ライさん♪」
「私はもちろんオッケーよ!」
「俺もいいよ、楽できそうだし!」
「じゃ、決まりだね。え~と......」
「自己紹介がまだだったね。僕の名前は西條 光我
あ、名前はコウガの方だから、コウガって呼んでよ!」
「へぇ、名前が後ろなんて変わってるね、まぁいいや。
私は『アルテ・ヴァーナック』アルテって呼んでね!
よろしく、よろしく、コウガ!」
アルテは笑顔でコウガに近づき、右手を掴んで
ブンブンと振る。
「私は『リィーナ・ロイエッタ』よ。
みんなにはリィーナって呼ばれているわ、
よろしくね。コウガ!」
リィーナもコウガに近づいて、
左手に握手する。
「俺は『ライ・シーカット』だ、気楽に
ライとでも呼んでくれ。よろしく、コウガ!」
俺はグッと右手をコウガの前に出し、
サムズアップする。
「ライに、リィーナに、アルテ!みんなよろしくねっ!」
リィーナとアルテの積極的挨拶に
照れた顔を見せつつも、コウガは爽やかに
ライ達に挨拶を返す。
「さて、ここにはゴブリンも魔物もいないみたいだし、
次の場所に移動しましょうか?」
再びリィーナは「サーチ・アイ」を使い、
ゴブリンのいる場所を探す。
「いた!あっちの方...距離は近いわね...」
リィーナが向けた杖の方角、北の方に
みんなで向かう。
コウガを仲間に入れ、ゴブリンを含めた魔物退治を
始めてから数時間が経った...。
「これで、ラストォォォ――――ッ!!」
「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!?」
コウガの声が森に響き渡ったと同時に
ゴブリンの断末魔も森中に響き渡る。
「やった、これで5匹目。何とかクエスト達成だね♪」
リィーナはギュッと握った右手を、
空に掲げる。
「やっぱ、コウガさん強いですね、ですね。
殆ど一撃で倒すんだもん!」
アルテは興奮冷める事もなく、キャーキャーと
はしゃいでいる。
「本当、どこかの誰かさんと違って、
頼りになり過ぎですよ。コウガさんは!」
リィーナもコウガの強さに感心し
頬を紅色に染める。
「いやいや、僕なんてまだまだですよ!」
コウガは照れながら、前に出した両手を、
フルフルと左右に激しく振っている。
「謙遜するなって。本当、二人の言うように
凄いと思うぞコウガは!」
俺は両腕を組み、ウンウンと首を縦に振る。
「さて、俺達のクエストは終わったが
コウガはどうする?まだ、LV上げするのか?」
「そうですね...僕はもう少し、LV上げをしたいかな?」
「そっか。じゃあ、俺はクエスト達成を
ギルドに伝えて来るから、お前達はコウガを手伝ってやりなよ」
「分かった。私達に任せてよ!ねぇ、お姉ちゃん♪」
「ええ!私達の目的だけ達成って、不公平だもんね♪」
リィーナとアルテは喜色満面で微笑んでいる。
うわ、二人ともコウガに負けないくらいの
爽やか笑顔だなぁ。コイツら意外に面食いなのか?
「じゃ、コウガ。二人の事を頼んだぞ~」
「はい!後は任せて下さい!」
ライはコウガと幼馴染み達に別れを告げた後、
ギルドに急ぎ向かう。
――――――――――
「ふう、やっと着いたぁぁぁっ!」
俺は背伸びをし、少し大袈裟目の叫声を発する。
さて、足も疲れているし...ちょっと休憩所で
休んで、それからギルドに行こうかな。
ガヤ...ガヤ...ざわ...ざわ...
「何だ...人の数が多いな?
それに、この町じゃ見かけない者もいるし...」
休憩所に向かう途中の広場で
いつもより人々の行き交いが多い事に気付く。
「朝はいつも通りだったよな?
俺達がクエストでいない間、何があった?」
俺の横を通り過ぎようとした町人に
この現状の事を聞いてみる。
「なぁ、この騒ぎ...一体何があったんだ?」
「何だ、お前知らないのか?今この町に
勇者様と聖女様が来ていらっしゃるんだぞ!」
「勇者様ってあの勇者様か?そ、それに聖女様?」
俺は突然と耳に入ってきた『勇者と聖女』という言葉に
今まで見せた事がない表情で喫驚している。
うわ、本当かよ。絵本や歴史に描かれている
あの伝説の勇者様と聖女様が、この町にいるのか?
そりゃ~みんな騒ぐよなぁ...。
俺が、そんな考えをしている中、
町人は話を続ける。
「しかし最近、この町で飛び交っていた王都の噂が
本当だったなんてな、驚きだぜ!」
「ああ!俺達は伝説の勇者様のいる世界で
まさに生きているんだぜ!」
「おお!そうだよな!
俺達の時代に勇者様か...すげえな!」
町人は興奮を押さえられないのか、
各々に叫声を上げ歓喜している。
まぁ、気持ちはわかるが...
そこまで興奮しなくても...。
ライは町人を冷ややかな目で見つつ、
再度、町人に勇者達の事を聞いてみる。
「で、その勇者様達はどこにいるんだ?」
「それがよ、町長の家やギルド所で
見かけたという情報は入っているんだが...
その後、誰も勇者様達の姿を見たという人が
いないんだよ!」
なるほど...だからみんな必死になって、
勇者様達をウロチョロと探しているのか。
「ありがとう。いい情報を聞けたよ」
俺は町人にお礼を言うと、
休憩所に足を向け、歩いて行く。
「しかし、勇者様か。もし伝説が本当なら
魔王も復活してるって事だよな...」
俺は勇者と対極的な存在、魔王の事を
ふと思い出した。
「もし、勇者様がやられるなんて事になったら、
この世界の平和が終わるかもしれないんだ...ハア~」
俺の心は、魔王の事で不安がいっぱいになり、
深い溜め息が口から洩れる。
そんな事をぶつぶつ呟き、歩いていると
どうやら、休憩所に到着したようだ。
「まぁ、前にも思ったが、俺がそんな事を考えても
仕方がないよな...。うっし、休憩するか!
俺の特等席、特等席~♪」
俺は不安な気持ちを無理矢理に切り替え、
何時もお世話になっているベンチへと
足取りを向ける。
だが、そこに......
「な!俺のベンチに誰か座ってる...誰だっ!?」
特等席のベンチ...そこに誰かが座っている
後ろ姿が俺の目に映るのだった...。