二十八話・鉄の鬼
「おい、見たか!今のメイリさん!」
「嗚呼...俺、ビックリし過ぎて...思わず叫びそうになっちまった!」
「でも、凄いなあのガキ。あの鉄の鬼と呼ばれるメイリさんを、
あんな風にメロメロにしてしまうなんてよ!」
「本当だぜ!俺には絶対無理だ!
それこそ、命がいくつあっても足りねえってっ!」
「俺があのガキの立場だったら、そんな面倒事...
死んでも願い下げだぜ!」
「「「「それなっ!」」」」
周りにいる冒険者連中の、メイリに対する俺の態度への尊敬、
メイリへの畏怖、こんな感じの様々な声が次々と耳に入ってくる。
「はは...やっぱりメイリって、ここでも畏怖の対象なんだ...!」
「まったく持って、失礼な連中です...。
これは少し、説教の必要があるかもしれませんね......!」
「「「「―――ッ!?」」」」
メイリのその言葉が聞こえたのか、先程まで喋っていた
冒険者達の表情が瞬時に真っ青になって、一斉に黙り混む。
「まあまあ、メイリ!それは後にしておいてさ、
今はクエストを、さっさと選ぼうよ!」
「それもそうですね、時間が勿体ないですよね!」
俺のメイリへの説得の言葉を聞いた冒険者達が、
こちらに向かって、両手を合わせ感謝の念を飛ばしていた。
冒険者達に感謝された後、しばらく俺とメイリは、
どのクエストが魔法試しに丁度いいのかと
色々、物色し続けていた。
「このクエスト...中々いいのではありませんか...!
ねぇライ、これにしましょうか!」
「どれどれ...」
メイリが指差すクエストの依頼表に、ライの目線が向く。
【魔物退治】
ダークキャット×5匹
報酬金貨13枚
期限なし
「き、金貨13枚って...メイリ、
このダークキャットのLVって一体、いくらなの?」
「ダークキャットは...え~と、平均LV33...でしたかしら?」
「お、俺の倍のLVか...はは」
「大丈夫!私がちゃんとサポートしますから!」
「そうだね、どっちにしろ...この辺の魔物には俺のLVじゃ
到底、勝てっこないだろうし...メイリを信じて
そのクエストにするよ!」
俺はそのクエストの書かれた依頼書を剥がす。
「それじゃ、クエストの依頼と
メイリのパーティ登録の申請をしてくるね!」
俺は依頼書を持って、受付嬢の所に歩いていく。
「スイマセン。このクエストをやりたいので
申請の方、お願いします。
後、あそこにいるメイリのパーティ申請も頼みますね」
「わ、わかりました!少々お待ち下さい!」
受付嬢は少し慌てた表情で、イソイソと奥の部屋に入って行く。
しばらくすると、その奥からさっきとは違う人物が出てきた。
「メイリ、メイリってあのメイリなのか!」
奥から出てきた大柄の人物が大声で荒らげて、メイリの名前を
何度も連呼している。
「はい、そうですよ。相変わらず騒がしい人ですね、クナは...」
メイリは、やれやれといった表情でその大柄の人物...
クナと呼ばれてた人物を見ている。
「あったり前だろ!お前がここにどれだけ久しぶりに来たと
思ってるんだっ!」
「そうでしたっけ?まあ、結構な時が過ぎた気はしますが?」
「相変わらず、冷静な事を言う奴だな!
イヤ~これを聞くと、メイリに会ったって実感するぜ!」
クナはよっぽど嬉しいのか、嫌味を口にはするが
破顔した表情を隠しきれずに、何度もメイリの肩を叩いている。
「キャッ!ちょっとクナ!そうパンパンと肩を強く叩かないでっ!」
「おおっ!?」
クナさんが肩を叩く度に、メイリのオッパイがタユンタユン揺れている。
よく見ると、クナさんも結構なオッパイをお持ちなようで、
こちらもメイリの肩をパンパンと叩く度に、タユンタユンと
豪快にオッパイが揺れている。
このメイリの親友...クナと呼ばれた人の種族は獣人で、
ふさふさの白の毛並みに、黒の縞模様が入った耳や尻尾が
特徴の白虎族だ。
髪型は髪を短く切ったショートシャギーで、
髪色はシルバー色。
鋭い目つきの奥に光る瞳の色は、まるで燃えている様な
真っ赤な色をしている。
見た目は完全にマッチョ女で、その見た目と同じく、
性格が豪快のようだ。
後...先程のタユンタユンを確認した所、
かなりのオッパイの持ち主なのは...間違いない!
「でも...どういう風の吹き回しだい?
あんなにハッキリと、やめます宣言をしたあんたがさ?」
クナは冒険者をやめたメイリが、ギルドに来ている事について、
何故だと問いかけてくる。
「それは、ライ...この子のお手伝いをする為に来たのよ」
「あはは...ども!」
メイリに紹介された俺は、威圧感全開のクナさんに
少しニガ笑いを浮かべながら、ぎこちない言葉で挨拶する。
「ヘエ...この子が、あんたの宣言をぶっ壊した張本人ってワケか!」
クナが、珍しいものでも見る感じで、
ライの事をジロジロと値踏みする様な視線で見てくる。
「クナは大げさなんですよ。
そのくらいの事で、一々と騒ぎ立てるなんて...」
「そのくらいの事あるわ!鉄の鬼と呼ばれたあんたの宣言を
撤回できる奴が、一体どれ程いるっていうんだ!」
クナはメイリの性格を知っている故に、
その信じられない行動に喫驚し、目を見開いて叫声を上げている。
「ちょっと、ライの前で変なアダ名はやめてくれる!」
鉄の鬼という単語を聞かれたくないメイリは、
やめてと言わんばかりに顔を真っ赤にする。
「お~お~!あのメイリがメスの顔になってやがるぜっ!」
「変態っぽいから、メスって言うな!」
クナのからかいにメイリは、更に顔を真っ赤にし、
デレいっぱいで叫んでいる。
「照れるな、照れるな♪」
ニヤついた表情のクナが、メイリの首後ろから右腕を回し、
ツンツンと人差し指で、何度も頬をつつく。
「しっかし、どんな敵でも冷静に叩き潰し、その敵を見下す様に足で
グリグリしていた、あのドSのメイリがよ...
こんなに顔を真っ赤にして、デレまくる日が来るとは
夢にも思わなかったぜ...世の中何が起こるか、本当にわからんものだな...」
「だから...昔の話はやめてって、言ってるのよぉぉぉ―――っ!!」
「うわ!やめる!その構えは――――――――ッ!?」
その言葉を言い終わる前に、メイリのいきなり放った爆発魔法が
クナをギルドの壁まで、一瞬で吹き飛ばす。
「まったく...クナは、本当にしつこいんだからっ!」
メイリは、魔法を放った両手をパンパンとはたき、
壁の方へ吹き飛んで行ったクナの事を、
呆れた表情をしながら、ジト目で見ている。
「あ、あの...俺のクエスト申請...まだでしょうか?」
メイリ達が和気あいあい?と、コントをやっている中、
俺はこの言葉を静かに吐露するのあった。




