二十六話・魔法を試そう!
「...と、言う訳で
今日は、魔物退治に行きたいと思います!」
朝食を済ませた俺は、今日の予定を高らかと発表する。
「何が...と、言う訳よ!
いきなり過ぎて、全然意味がわかんないって!」
「それにどうして、魔物退治なんですかライお兄さん?」
いきなり宣言するライに対し、ロザリーとモカの
それぞれが、当然の事を聞いてくる。
「ほら...昨日、魔法を覚えたじゃん!その魔法を試してみたくてさ...」
「なるほど、それで魔物退治か!」
「そういう事!それで頼みがあるんだが、
俺をこの間のダンジョンに連れて行ってくれないか?」
「この間って、試練のダンジョンの事?」
「ああ!あそこなら、俺でも何とか戦えるし」
「なるほど。でも残念なんだけど、試練のダンジョンへの立ち入りは、
しばらく、禁止されているんだよね!」
「え...!う、嘘だろ...っ!?」
俺は、ロザリーから聞いた事実に目に見えてわかるくらい、
ガッカリした表情で後退りしする。
「そこまでガッカリしなくても...。ほら!別にそんな所に行かなくても、
ダーロッドの外にいる魔物でも狩ればいいじゃないの?」
ショックで項垂れているライに対し、ロザリーがほかの提案を述べてくる。
「本当ならそうしたいだけど、俺のLVって...15なんだよね~。
この辺の魔物の平均LVって、30なんだろう?そんなのと戦ったら、
俺なんてあっという間に、あの世行きですよ...はは」
俺は呟く様にそう語ると、哀しい表情で天を仰ぎ、
そっと、溜め息を洩らす。
「そんなに落ち込まないの!ウチが一緒に戦ってあげるから!」
「本当か!」
「だって、LV15って言ってるけど...そのLV3つ分は、ウチのせいで
幸運に振ってしまい...ライのLVって、実質12みたいなものだしね...」
そんな悲観に浸っているライに、ロザリーが申し訳なさそうな苦笑を見せて、
汚名返上をするべく、救いの手を差し伸べる。
「ちょっと待った!私も付いて行くからね!」
ロザリーに続けといわんばかりに、モカも天高々に腕を上げ、
立候補の意思をみせる。
「二人が来てくれるっていうのなら、俺的には大変嬉しいのだが...
今日は用事は何もないのか...?」
「よ、用事!?」
「えっと、それは...」
「...ありますよ。ねぇ、ロザリーさんにモカさん...!」
言葉を濁らせる二人に、怒りがこもった誰かの声が、
ゆっくり口調で、話しかけてくる。
そして、その声のする方にライ達が顔を向けると......
「め、メイド長っ!?」
そこには、憤激な表情で仁王立ちしている
メイド長がいた。
「私...昨日、あれほど今日は王宮に行くようにと、
お伝えしましたよね?」
「は、はい!確かに聞きました!
だけど、どうせまたいつもの事で呼び出しなんでしょう?だったら...!」
「だったらも、へちまもございません!王宮の呼び出しを無下するなんて
この国では、貴女達くらいですよ!」
ロザリー達の言い訳に対し、
メイド長は憤激を含む冷静な声で説教をする。
「でも~そうなったら、一人になるライが可哀想じゃん!」
「その事なら安心して下さい。
ライ様の件は、私が代わりにやっておきますので!」
「「ええ!メイド長が代わりにっ!?」」
メイド長がそう述べるとロザリー達の表情から色が抜け、
シンクロしながら喫驚している。
「ヤバい...ヤバいよ、ライ逃げて!肉食獣に食べられちゃう~!」
「そうですよ、ライお兄さん!こんな飢えすぎた獣と一緒にいて、
無事に済む訳がないんですっ!」
ロザリーとモカは慌てた表情で狼狽し、ライに向かって
必死に逃げろと切望の言葉を投げ掛ける。
「ほう...まだそんな事を言う元気がありましたか...」
ロザリー達のふざけた態度にイラっときたメイド長が、
両手を前に出し、指を動かしてコキコキと鳴らす。
「キャアアアッ!その指の音を鳴らすのはやめて~!」
それ見たロザリー達は、体をブルブルと震わせると、
急いで玄関の方に足を向ける。
「そういう訳だから、ごめんね!ウチら行けなくなっちゃった...」
「ま、いいさ。メイド長がついて来てくれるらしいしさ!」
「それが、一番不安なのよ!いいライ!肉食獣が変貌したら、
全力ダッシュで逃げるのよ!迷ったら即、食べられちゃうんだから!」
「お、おお!よくわからんが...一応、気をつけておくよ...」
俺はロザリー達が何を言っているのか、よく理解できなかったので、
曖昧な返事を返す。
「一応じゃ駄目!全力で逃げてい......ッ!?」
「は・や・く・い・き・な・さ・い・っ!」
「ハイ――――――――――――――ッ!」
「じ、じゃ~!ウチらこの辺で失礼させてもらうねっ!!」
メイド長のどす黒いオーラを肌に感じたロザリー達は、
脱兎の如く、その場を去って行った。
「はあ、やれやれ...あの娘達は...」
二人の言葉や態度にメイド長は、軽い嘆息を吐く。
「さて...さっきの話通り、ライ様の魔法試しには
私が付いて行きますね!」
メイリはライにそう述べると、一礼してニコッと微笑みを見せる。
「それは、いいんですが、
その...メイド長は戦闘経験というものはあるんでしょうか?」
これから一緒に戦う事になるメイド長に、
今まで戦った事があるのかを、率直に聞いてみた。
「はい...嗜む程度ではございますが...一応、ありますよ」
「それで...LVはおいくら程?」
「恥ずかしいのですが...LV55程度でございます」
「ちょ!55って本当ですかぁっ!」
嘘!ロザリーより、LVが上なのっ!?
俺は余りのLVの高さに、喫驚の声を荒らげてしまう。
「ちょっと、LVを付けて言って下さい!
数字だけだと、年齢を言われた様に聞こえますから!」
「あ、スイマセン...!
もしかして、年齢がそのくらいだからですか?」
「ライ様って、結構失礼な人なんですね!私は二十代ですよっ!」
その失礼な発言に、メイド長が憤激の表情でジト目になり、
ライの顔を凝視して睨んでいる。
「で、ですよね~。メイド長って、キレイで美人だから
そんな訳ないのに...はは!」
「キレイ!美人!もう、何を言ってるんですか!
そんな訳ありませんよ!」
メイド長は狼狽しながら、頬が紅に染まっていき、
ライの言葉を否定してくる。
「いえいえ、メイド長を美人より下と見るなら、
美人の定義が一気に変わりますよ!」
「もう、ライ様!大人をからかうものじゃありません!
さ、さあ!そんな事よりも、
早く出掛けませんと時間がなくなりますよ!」
ライの美人に対する意見に恥ずかしくなったメイド長が、
憤激したフリをしてその場を誤魔化し、話しの流れを変えてきた。
「あ、それもそうですね。それじゃ、ちゃっちゃと行きましょうか!」
「キャッ!」
つい、うっかりメイド長の手を掴んで引っ張ってしまうと、
普段、聞いた事がない可愛い声を上げて、ライの手を払いのける。
「あ、スイマセン!つい手を掴んでしまって!」
「い、いえ、気にしないで下さい。
いきなりでしたので、少々ビックリしただけですから!」
「それは良かった!それじゃ、行きましょうか!
...って、どうしました?」
「あの...手を」
メイド長は乙女の様な瞳でライを見つめてきて、手をそっと前に
差し出してくる。
「あ...それじゃ、失礼して...それでは改めて、行きましょうか!」
「ハイッ!」
ライの言葉に返したメイド長のその声は、肉食獣どころか、
まるで恋に落ちた少女の様な可愛らしい返事だった。