二十四話・番外編3 幼馴染みや妹の葛藤
「おのれ~!どこの馬の骨ともわからない牝狐なんかに、
ライお兄ちゃんのファーストキスを奪われるなんて、なんてぇぇ――――ッ!!」
突然、語られたあまりの衝撃に、アルテは目を見張り、
喫驚の叫声を上げている。
「大体、ライもライだよ!ボーッとしているから、油断して
キスなんかされちゃうのよ!」
「私なんて、いつでもできるのに、お兄ちゃんからして欲しいからって、
初めてのキスを、ずっと我慢してきたっていうのに!」
「えっ!?し、シスちゃん...今、なんて......?」
突如、シスちゃんの口から呟かれた驚愕な言葉に、
私は目を丸くして驚いてしまう。
「ハッ!え、ええ?わ、私、今なにか言いましたか?」
「ライからして欲しいと......」
「ああああああ――――ッ!聞こえません、聞こえません、
私には、全然聞こえませんよ~!」
シスは耳を手で抑え、叫声を発して聞こえないフリをする。
「そ、そんな事より、リィーナさん!
私のせいで時間を潰させちゃいましたけど、
早くいいクエストを選びに、ギルドに行かなくてもいいんですか?」
シスは話題を変えようと、今日のクエストの事を
リィーナに聞いてくる。
「今日は別に、クエストの方はいいのよ」
「え?め、珍しいですね...いいクエストゲットって、
いつも躍起になっているのに?」
シスはどうしてと言いたげなハテナ顔で、
リィーナの事を見ている。
「今日はコウガとの約束があって、
そっちの方を優先しなきゃいけないから」
「コウガ?コウガって、誰ですか?」
「え...ライから昨日の出来事とか聞いていないの?」
「昨日の出来事をお兄ちゃんから...ですか?
......ああ、思い出した!コウガって人、もしかしてクエスト中に
知り合ったとかいう、爽やか少年さんの事ですか?」
ライがクエストから早く帰ってきた時に、
そんな事を言っていたのを、シスはふと思い出した。
「なんだシスちゃん?コウガの事、知ってるじゃない?」
「いいえ、名前は今初めて聞いたんです」
「コウガの名前、ライから聞いていないの?」
「ハイ...。私がお兄ちゃんから聞いたのは、クエストを
その爽やか少...コウガさんって人が、助けてくれたという事と...
リィーナさん達がそのコウガさんを助けてる為に、
森に残ったっていう話くらいしか聞いてません...」
シスはライから聞いていたコウガの話を、
知っているだけリィーナに話す。
「あいつ、本当に大雑把だな...。
自分を助けてくれたコウガの名前くらい、
シスちゃんに教えておきなさいっていうの!」
「こほん、じゃ...コウガと私達の事、詳しく話すね...」
リィーナは、ライの大雑把さに呆れつつ、
シスにコウガとの経緯の事を、詳しく説明していく...。
すると、それを聞いていたシスの表情が、
少し困惑した表情へと変わる...。
「......なるほどねぇ、つまり...リィーナさんにとって、
そのコウガさんは、憧れな人にでも会ったという
展開だったんですね?」
「あ、憧れな人って、コウガが!?ち、違う違う!」
私はシスちゃんの問いに、頬に汗を掻きながら、
慌てた表情で否定する。
「でも、リィーナさん。
そのコウガさんの事を、恍惚な表情で見てたんでしょう?」
シスはその場を見てきたかの様な表情で
リィーナにそう述べる。
「はい、その通りです!リィーナお姉ちゃん、コウガさんの事を
頬を紅に染めて、ボーッと見てましたです、です!」
「やっぱりか...」
「何よ!アルテだって、コウガの強さにキャーキャー言いながら
興奮状態だったじゃないの!」
「リィーナお姉ちゃんだって、ライお兄ちゃんと違って、
頼りになり過ぎるとか言っていたじゃないですか!」
リィーナとアルテが目線をバチバチさせて、
コウガの事で、口論をし始める。
「ハア、これを見せられたから、お兄ちゃん...
心が屈して自棄になり、あの娘に隙をつかれてしまったのか...」
シスはその場にいたライの喪失感を思うと鬱屈な気分になり、
嘆息が口から洩れる。
「え...ライがその娘とキスしたのって、もしかして...私達のせい?」
「当然そうですよ。お兄ちゃんの立場を自分に置き換えて、
想像してみれば一目瞭然じゃないですか!」
「ライの立場を......」
「自分の立場に置き換えて......」
リィーナとアルテは目を瞑り、シスの言った通りに
自分とライを置き換えてた想像を頭の中に浮かべた...。
しばらくして目を見開くと......
「あああああああ!百パーセント私のせいだぁ――――ッ!!」
「違うです、です!私のせいですよ、私のせいで......」
一人は、自分の仕出かした事に絶叫で叫び、
もう一人も、頭を垂れて曇った表情で自分を責めている。
――――――――――
幼馴染み達がライ事で困苦していたこの時間から
時が進んだ、今現在......。
「ハア...それにしても、あの魔法書の店長さんのオッパイ、
本当にデカかったなぁ......!」
当の本人は、幼馴染みや妹の葛藤なんて露知らず、
こんな事を考えていた......。




