二十三話・番外編2 妹の涙
「どうしたのシスちゃん、そんなに泣いて?」
「ぐす...お兄ちゃんが...お兄ちゃんが...ひく...」
シスはすすり泣きしながら、ライの事を必死に伝えようとする。
「シスちゃん、落ち着いて!ライがどうしたの?」
「ぐす...消えたの...」
「消えたって...何が消えたの?」
「お兄ちゃんが私の目の前で、消えていなくなったの!」
「消えていなくなった...?ライが消えたって事?」
「う、うん...グス...」
ライが、消えた?目の前で?言っている意味がよくわからない...。
取り敢えず、今はシスちゃんが落ち着くのを待って、
それから詳しく話を聞かせてもらおう...。
それから、数十分が経過して、
シスの動揺も少し落ち着いてきた...。
「スイマセン、みっともない姿を見せてしまいました!」
シスは顔を真っ赤にしながら慌てた顔で、
リィーナに頭を下げてくる。
「いいのよ、気にしないでシスちゃん。
それより、どうやら落ち着いたみたいだね!
じゃ、早速でわるいんだけど、ライの事...聞いてもいい?」
「お兄ちゃんの事...ううう...」
リィーナがライの事を聞こうとすると、シスの瞳が
またウルウルとし始める。
「だあ!シスちゃん、はいはい泣かないで~落ち着いてね!」
私はシスちゃんを抱き寄せ、頭を撫でながら、
落ち着く様に促す。
「度々スイマセン、もう大丈夫ですから」
「うん...それじゃ、ゆっくりでいいからライの事を話してみて...」
「う、うん...実はですね、今日の夜明け前...深夜に......」
それから、シスはゆっくりではあるが、
深夜に起こった出来事を詳しく話し始める。
「その僕っ娘が、魔法みたいなのを唱えたら、
その場で二人が消えちゃった...か」
「うん...」
「その魔法って、何かわかる?」
「確か、お兄ちゃんがテレポートとか言ってたような?」
「て、テレポートッ!?」
「リ、リィーナさん!
テレポートが何の魔法か、知っているんですか?」
「ええ、テレポートっていうのは神級魔法の一つで、
一度行った事のある場所になら、瞬時に移動できるって魔法だよ!」
「瞬時に移動できる...
それじゃ!お兄ちゃん、消えて消滅したんじゃないんですね!」
シスは、身を乗り出し、先程までの表情が
嘘の様に希望に満ちている。
そっか...シスちゃん、魔法の事を詳しくないから、
移動魔法を、消滅したって勘違いしたんだ?
まあ...実際、移動手段って簡易脱出アイテム以外では、
神級魔法のテレポートのみだもん。
私だって、目の前でやられたらビックリする自信があるよ...。
私は安堵感に浸っているシスちゃんを見ながら、
心で中でそう呟いた。
「しかしテレポートを使えるなんて、その僕っ娘って...
一体、何者なんだろう?」
「何者...!?」
「ど、どうしたのシスちゃん!いきなりそんな怖い顔をしてっ!?」
いきなり憤怒がこもった表情に変わるシスちゃんに、
私は思わず喫驚し、後退りしてしまう。
「安心したら、その娘がお兄ちゃんとは恋人だって、
言っていたのを思い出しちゃったんです!」
「ここ、恋人ぉぉぉっ!誰と誰がっ!?」
「だから、その娘とお兄ちゃんがですよ!」
「う、嘘だよね?あの鈍感やろうのライに限って、
そんな事...ありえないよね!」
「でも...その娘とキスしたって話だし...」
「ききききき、キスしたですってぇぇぇ―――――ッ!!」
私はシスちゃんの口から伝えられた言葉に、
喉が潰れそうなくらいの大声で叫喚してしまう。
「ほほほ、本当なのっ!?そそ、それって本当に、本当なのっ!?
ねぇったら...ねぇぇぇっ!?」
「あわわわ~!お、落ち着いて~今度はリィーナさんが
落ち着いて下さいぃぃ~!」
リィーナはシスの肩をガシッと掴み、揺らしながら
真実かどうかを必死に問いかける。
その騒ぎの中、この部屋に近づいてくる
誰かの足音が聞こえる。
「どうしたんですか、ですか!リィーナお姉ちゃん!
いきなりそんな大声を出してッ!」
「ライの奴ッ!ここに私という可愛い幼馴染みがいるっていうのに、
どこぞの訳のわかんない女なんかと、
ききき、キスなんてしやがって――――ッ!」
「ききき、キスッ!?ライお兄ちゃん、
だ、誰かとキスしたですか、ですか~っ!?」
「それは、ですね......」
リィーナが発した、ライのキス発言に驚くアルテに、
シスはテレポートの件や、恋人の件の事を詳しく説明する。
「ライお兄ちゃんが、テレポートで消えた?
それにその僕っ娘とは、キスもしちゃう恋人関係...ですか、ですかっ!」
アルテは、シスが語った言葉の数々に目を丸くし、
驚きを隠せないでいた。
「でも冷静に考えてみたら、本当にライと恋人関係なの?
その娘の妄想の類いか何かじゃないの...?」
「恋人かどうかはわからないけど、
キスの方はお兄ちゃんの口から、ほぼ確定の言質を取ってるから、
残念だけど本当だよ...しかも、ファーストキスだって...さ」
「「ファーストキスッ!?」」
キス...しかも、ファーストキスを奪われたという事実に、
リィーナとアルテは、石化した様に固まってしまう。




