二十話・王都ダーロット
「うわ~凄いなぁ!人がいっぱいだ!
この間見た、カロンの人波にもビックリだったが、
今、目の前に映るこのダーロットの人波とは段違だな!」
俺は人の多さに驚愕し、おのぼりさん状態で
興奮しつつ歓喜している。
「それはそうですよ!
だってここは、王都ダーロットなんですから!」
アーミカは自分の事の様に、
ドヤ顔をしてふんぞり返り威張っている。
「そう言えば、前にここに入ってきた出入り口では、
あんまり人を見かけなかったな...それは何でなんだろ?」
「あそこは、特別な人が出入りする専用の門だからですよ」
ライの疑問にアーミカは直ぐ様、答えを教えてくれた。
「ああ、なるほど···。
あの馬車、王族専用とか言ってたっけ?」
「なあ···あの馬車といい、あの屋敷といい、
ロザリー達って、一体···何者なんだ?」
「あれ?聞いていないですか?
あのロザリーさん達は――――ハウゥゥゥッ!」
突如、アーミカが何者かに、
後ろから思いっきり吹っ飛ばされる。
「おい!大丈夫か!?」
「はにゃあぁぁ······」
アーミカは、目をグルグルと回し、
気絶している。
「誰だ!こんなヒドイ事をする奴は!」
俺はぶつかってきた人物を探す為、周りを見渡すが
どこにも人の気配が見当たらない。
「くそ···逃げ足の速······ん?」
俺の足を誰かがトントン叩くので、視線を下に向けると、
ローブを纏った...背丈やしゃべり方からして小さな男の子?
...らしき、謎の人物が立っていた。
「嗚呼!お前か!
アーミカにぶつかってきたのは!」
「ご、ごめんなさい!わた...俺、逃げるのに必死で
前を見てなくて···!」
「逃げる?」
「あ、いたぞ!あのやろう!
おい、そこの男!そいつを掴まえてくれ!」
「掴まえてって···こいつが何かしたのか?」
「無銭飲食だよ!
金も払わず逃げ出しやがった!」
「ほう···」
「わ、何をする!」
ライは、逃げようとする謎の少年の襟首を
ひょいっと掴み、持ち上げる。
「無銭飲食って...それは、逃げちゃ駄目だろう···」
「あいつ、お金は後で払うって言ってるのに、
いきなり兵士を呼ばれたから、つい···」
「なるほど、いきなり兵士をねぇ...。
あんた!こんな少年に対してやる事とは思えない乱暴さだな!
払えないって言うなら、皿洗いでもさせて許してやればいいのによ!」
小さな男の子に対する態度として、それはどうなんだという目で、
俺は追いかけて来たおっさんの顔をジト目で見る。
「ああん?何で俺が、こんなただ食いやろうに慈悲を与えて
やらなきゃいけないんだ!」
ライはそのおっさんの物言いに、段々と苛立ちを覚え、
感情が少し憤怒していく···。
「···いくらだ?」
「はあ?いくらって、何がだよ?」
「ふう...だから、こいつの食べた代金はいくらなんだと
聞いているんだ!」
俺は憤怒を抑え込む為に溜め息を一つ吐き、
冷静な表情でおっさんに飲食代を問う。
「あ、それは銀貨3枚だ···」
「じゃあ、ほれ···迷惑料も含め、6枚払うから
それでこいつの事、許してやってはもらえないだろうか?」
代金の値段を聞いた俺は、皮袋から銀貨を6枚取り出し、
手渡しながらおっさんに頼み込む。
「俺はいいが···お前さんはそれでいいのか?」
そうおっさんが聞いてくるので、ライは冗談混じりで、
こう言い返した......
「ああ、その代わり···今度、おっさんの料理を食べに行ったとき、
ジュースの一つでもオマケしてくれ」
「ジュースか···はは、そんなもんで良かったら、
いつでも付けてやるぜ」
そう言うと、おっさんは来た道をスタスタと帰っていく。
「やれやれ···残りがこれだけになってしまった···」
俺は、硬貨の入った皮袋の中を見つめ、
嘆息を吐いた。
「あの...その...あ、ありがとう···」
「いいって事よ!こんな年端も行かない子どもを
俺の目の前で、牢屋に直行なんぞさせたまるかっていうの!」
「はうっ!」
申し訳なさそうな顔でお礼を言ってくるローブを纏った少年の頭を、
ライはニカッと笑い、ワシャワシャと撫で回す。
「それにしても、アーミカ!いつまで気絶してるんだ、
いい加減起きろ~!」
「食べ物騒ぎのせいで、
俺も腹が減って来たな···屋台で何か買うか?」
「おい、お前も一緒に······って、いない?」
ローブを纏った少年がさっきまでいた場所を見渡すが、
そこにあいつの姿は既になかった。
「ちぇ~、挨拶くらいしていけっていうの···
まあ、いいか。ほれ、アーミカ屋台へ行こうぜ!」
「あいあい~待ってください···」
強引に起こされたアーミカがライの後を
フラフラと付いてくる。
ガーロットから少し離れた、
森の中···。
「あ!こんな所にいらしたのですか?
お探ししましたよ!」
「すいません···キジュ。
ちょっと、ごたごたに巻き込まれちゃって···」
「それで、結果はどうでした?」
「ええ噂通り、既にこの王都ガーロットに
『転移』してきてるわね···」
「それでは、今の内に叩き潰した方が!」
「それは少し早計です···。
もうしばらく、様子を見守ってみましょうか···」
「はは!御心のままに!」
「それにしても···」
ローブを纏った少年は、ライに撫でられた頭をそっと触り、
先程の事を思い出している。
「ふん···変な奴だったな······また、会えるかな?」
この言葉を吐いた後、
森から、二人の姿はどこにもなかった。
――――――――――
その頃、俺は色々な屋台の味を堪能していた。
「おおおおっ!うまい!
何だこのジューシーなお肉さんは!」
「それは、B級魔物タウロイスのお肉だよ!」
「タウロイスって、あの高級店とかでしか
お目にかかる事のない、あのタウロイスか?」
俺はそれを屋台で食べられるこのガーロットという王都に、
喫驚して目を丸くしてしまう。
「でも···この肉、シスに食べさせてやりたいな···」
「シス?もしかして、恋人ですか!」
「違う、違う!妹だよ、妹!」
アーミカが身を乗り出して聞いてくる、シス恋人ですか発言に
俺は慌てて、手をフルフルと振って否定する。
「妹さんでしたか···安心しました···」
「安心?」
「ああ、き、気にしないで下さい!独り言ですから!」
「?」
「さて、お腹も膨れてきたし...そろそろ飲食物系は
もういいかな?」
俺は膨れたお腹を擦りながら、そう呟く。
「それではライさん!次は掘り出し物市場に、
行ってみませんかっ!」
アーミカが、身を乗りだし満面の笑みで、
次に行く場所の提案をしてくる。
「掘り出し物市場?」
「その名の通り、レアな物が色々と見つかる場所なんですよ!
まあ···殆ど、ガラクタばっかりですが···」
「おお~何か面白そうな場所だな!
是非、そこに行ってみたい!」
「わかりました。では、掘り出し物市場へ
レッツラゴーと行きましょうか!」
「おう!」
俺とアーミカは、掘り出し物市場とかいう場所に
早速と向かうのであった。




