十六話・二人の攻防戦
ぐう~ぐううぅぅ~~っ!
「あ、腹の虫が鳴いてる...」
俺は、グーグーと鳴り響くお腹の音を聞いて、
そっと自分のお腹を手で擦る。
「そういえば、そろそろ夕食の時間だね?」
「夕食...確か、メイド長がそんな事を言っていたっけ...?」
あのだだっ広い部屋でメイド長が...
「一時間程で夕方のお食事時間ですので、
それまでには、起きていて下さいませ...」
...とか、俺に告げていた事を、ふと思い出す。
「私もお腹空いたし、善は急げだ!
さあ、ライお兄さん!夕食を食べにレッツゴーだよ!」
「ちょ、モカ!そんなに急がないでくれ~
俺、この屋敷の構造を、全く知らないんだから~!」
ダッシュで駆け抜けるモカの後を、俺は必死に追いかけて、
無事に何とか、食事が用意されている部屋に到着する事ができた。
「ライ様、どこへいらっしゃっていたのですか?
お部屋にいらっしゃらないんで、慌てて探していたのですよ!」
部屋に入るとそこには、仁王立ちしているメイド長がいて、
何も告げず、部屋からいなくなったライに対し、
軽い説教を口にする。
「すいませんメイド長。ちょっと寝付けなくて、
散歩がてらに、屋敷をまわっていました...」
「そうですか...でも心配しますので、
次からは書き置きでも残しておいて下さいね、
貴方にもしもの事があったら、私はミルナ様に...!」
「ああ、ミルナお姉さん、怒ると怖いもんね...」
ミルナの名前を出した二人が何かを想像したのか、
ブルブルと自分を抱き締め、身を震わせる。
ロザリーといい、この二人といい、
やけにミルナの事を恐れているよな?
あいつ...怒ると、そんなに怖いのか?
今までのあいつからは、全く想像つかないよな...。
そんな感じな事を考えながら、夕食の時間は
過ぎ去っていくのであった...。
あ、ちなみに俺の部屋は、ひとまわり小さな部屋に
変えてもらった。
「はあ~凄いご馳走だったな...♪」
俺は食い過ぎたお腹を擦りながら、
夕食の美味しさを思い出し、満足感に浸っている。
「だよね~ここの料理って、本当!なにを食べても
絶品で美味しいよね!」
「そうだね、これもメイド長があの料理人達を、
スカウトしてくれた賜物だよ!」
「はは...本当、メイド長のスカウト成功率って高いよね~!」
「そうそう、この間連れてきたメイドさんもさ、
今では何でもテキパキこなす、凄腕メイドさんになってるしねぇ!」
「あ、そうだ!凄腕と言えばさぁ......」
「......へえ、それは感慨だねぇ!」
ロザリーとモカが、この屋敷の料理の美味しさについて
楽しく談笑している......俺の部屋で。
「ねぇ、君達...。
何故、普通に俺の部屋で談笑をなさっているのでしょうか?」
「ライお兄さん、どうせ暇してたんでしょう?
私も暇だから、丁度いいじゃん♪」
「そうそう、ウチも退屈なのよ。だから構って~♪」
夕食を食べ終わり、俺が部屋へ帰る際、
何故か二人が一緒について来て...今に至っている。
「イヤ...別に暇ではないんだが、それにもう俺、寝たいだけど...」
「そんな事を言わないで~もし構ってくれたら、
お礼にウチのパンツ...見せてあげてもいいからさ!」
「ちょ!パンツを見せるって......リアリー?」
俺の耳に確かに聞こえてきた、その魅力的な言葉の言質を取る為、
再度、ロザリーに本当かどうか聞き直す。
「だって、ライってば...ウチが盗賊達と戦闘している時、
素早く後ろに回って、ウチのスカートの中を覗こうと必死になって、
視線を動かしていたでしょう?」
キャ――――ッ!バレテタ――――――ッ!?
さりげなく行っていた行為が、完全に見抜かれていた事に喫驚し、
俺は思わず、叫んでしまいそうなくらい心の中で叫声する。
「だから、お礼はそれがいいかなって...」
ロザリーは、スカートをヒラヒラさせてライにそう語る。
「それにウチが今履いているやつは、
あそこにいるお子様パンツと違って...エロいよ!」
「マジでっ!!」
俺は、ロザリーの発した『エロい』と言う単語に、
短い言葉で叫喚する。
「ちょっと!ロザリーお姉さん!
今の発言、聞き捨てなりませんよっ!」
「だって...ねえ?」
ロザリーはモカの体を値踏みする様に、
ジロジロと見回す。
「人の体型をジロジロと見ないで!
私は手遅れおばさんと違って、成長期なんだから!」
「誰が手遅れおばさんだ!ウチはまだ、十代だぞ!」
手遅れと宣言されたロザリーが、目を見張って
モカに大きい声で叫喚する。
「ギリギリで...でしょう。四捨五入したら二十代の癖に!」
「四捨五入するな~!」
「大体、ロザリーお姉さん...今まで異性なんて
まったく、気にもしなかった癖に...何を突然トチ狂って、
ウチのパンツはエロいよ...だ!」
「そういうモカだって、男女のイチャイチャを見て、
何それ?バカなの...死ぬの?
...って、散々メイドや執事達の恋愛をディスっていたのは、
一体どこの誰かしらねぇ!」
「う、うっさい...このブサイクおばさんが!」
「おい!おばさんに、ブサイクまで付けるなぁっ!!」
ロザリーとモカが、ガルガルと視線をバチつかせ、
お互いを罵りながら、睨み合っている。