十二話・ダンジョン脱出
「所でライ...こんな通路の真ん中で、一体なにをしていたの?」
「いやね、LVが上がったから、
ポイントの振り分けをしようと思......ナニャ―――ッ!?」
床に落ちたステータスカードを拾い上げ、
ポイント欄を見た俺は、思いがけないその出来事に、
声にもならない奇声を口から発した。
「ど、どうしたの?そんな奇声を上げちゃって!?」
「ぽ...ポイントを全部、運に振っちゃってる......」
さっき、ロザリーが俺にぶつかってきた時、
全ポイントを持った指を、運の欄に滑らせてしまったらしい...。
「それって、さっきウチがぶつかった時に...?」
「あはは...まいったな」
こんなどうでもいい奇跡が起こった事に、ニガ笑いをしながら、
静かに天を見上げる。
「ゴメン!まさか...そんな事になるなんて...!」
「イヤ、別に気にしなくてもいいよ。LV三つ分の
ポイントだけだったし...」
俺は気持ちを切り替え、後から運に振るポイントを
今振ったんだと、そう思う事にした。
「LV三つ分って、そんなになの!
あわわ...ゴメンなさい!本当にゴメンなさい~っ!」
ライの気持ちの切り替えを知らないロザリーは、
自分のやらかした行為に喫驚しながら、
何度も誤り、オロオロと狼狽してしまう。
「そうだ!これをお詫びに献上しますので、
それで許してやって下さいませ~!」
ロザリーはフルフルと震える手で、
マジックポーチから、ひと振りの大剣を取り出し、
ライにへへ~っと言わんばかりなポーズで手渡した。
「ちょ!そこまで申し訳なさそうにされてると、
逆にこっちが困るんですけど!」
ロザリーの卑屈に媚びる姿に俺は困惑し、
取り敢えず落ち着けと、説き伏せる。
「たっく...でもこれ、キレイな大剣だね?それに物凄く軽いっ!」
「それは、ミスリルブレードという大剣で、
その軽さで、鋼より硬いんだ!」
「へえ~こんなに軽いのに!」
説得もあってか、ロザリーは大分落ち着いてきた様で、
俺の疑問に、相好を崩した表情で教えてくれた。
「でも、この大剣...本当に貰ちゃっていいのか?
俺って貰える物は、たとえそれが豪華な物でも
躊躇なく貰っちゃう男だから、マジで貰っちゃうぞ!」
俺は自分の貰える物に対しての心構えを、
ロザリーに語って聞かせる。
「あはは...良かった。その大剣の事、気にいってくれたようで。
それでお詫びになるかわからないけど、
どうにか勘弁してもらえると助かるわ!」
「こんな良い大剣を貰ったんだ、めっちゃ許しちゃうって!」
俺はミスリルブレードを試し振りしながら、
満足顔でそう述べた。
「しかし...このミスリルブレードって、凄いレアっぽいけど
あんな理由であげても良かったのか?俺が言うのも何だけどさ...」
まあ...返せと言われても、もう返しませんけどね~。
貰った物はその時点で俺の物に変換ですもんっ!
「それは大丈夫!どうせウチ、剣は装備できないし、
アイツは片手剣しか、使わないだろうから...」
「アイツ?」
「気にしないで、こっちの事だから...!」
ライの問いにロザリーは、言葉を濁らせた。
「後、もう一つ聞きたいんだけど、何故あなたが
このダンジョンの中にいるの?」
「それは俺にもよくわからないんだよ...。
むしろ、こっちが聞きたいくらいだ!」
「何か、訳ありみたいだね...取り敢えず、
ウチで良かったら話してみてよ!」
ライはミルナのテレポートで、このダンジョンに
ワープしてきた事をロザリーに話した。
「テレポート...僕っ娘少女...。
ねぇ、もしかして...その娘、ミルナって名前じゃない?」
「よくわかったな、もしかして知り合いなのかい?」
「簡単にいうなら、パーティ仲間かな?」
「ミルナのパーティ仲間?
あ~!思い出した!あの時、ミルナの話に出てきた...」
確か、そのパーティの誰かと相性が悪いから、
俺の所に頼みにきたという流れだったっけなぁ...。
「ねぇ、ミルナがさ...その...ウチ達の事をさ、
なにか言ってなかった...かな?」
「ゴメン、君たちパーティの事は、
ミルナからそこまで詳しくは、聞いていないんだ...」
ミルナの言っていた、誰かと相性が悪いという話は
今は取り敢えず、言わないでおこう...。
「そっか...。それで、ライはこれからどうする?
ここを出たいんだったなら、外まで案内するけど?」
「それはありがたい!ソロで戦うのも
限界ぽかったし、お願いしてもいいかな?」
「じゃ、私のそば近くに寄って来て♪」
「近く...これくらいでいいかな?」
俺はロザリーに、触れるか触れないか
ギリギリな距離まで近づく。
「もう、ライ!それじゃ駄目だよ!
これくらい近づかなきゃ......エイッ!」
「なっ!?」
ロザリーは俺に駄目出しをした後、
いきなり後ろからハグする様に抱き付いてきた。
「お、おい!何で、抱き付くんだ!?」
ロザリーの突然の行動に
俺は慌てふためき、動揺してしまう。
「それはね、こうしてないと脱出時に、
違う所に出ちゃうかもしれないからよ♪」
「脱出アイテムで、そんな話し聞いた事ないのだが?」
「可能性の問題よ。現にライもテレポートに失敗して、
ここに迷い込んでるじゃない?」
「あ...そう言われれば...!」
「そうならない様に、ウチがしっかりと
抱き付いててあげるから安心してね~!」
そう言うとロザリーは、さっきより強く
ライを抱き締める。
「はう!む、胸が背中にムニュッって...!?」
「ん?どうしたのライ?顔が真っ赤だよ?」
ロザリーは、どうしてライの顔が赤いのか、
本気でわからないようだ。
「気のせいだ!気のせい!それより脱出を!」
「そだね。それじゃ、いっくよ~脱出っ!」
ロザリーが持っていたダンジョン脱出アイテムを
天に掲げると魔法の球体が現れ、
俺達を包み込んだ瞬間、ダンジョンを脱出する。