十話・テレポート
外もまだ暗い時間、俺は眠りの中に落ちている...。
ぐう...ぐう...
昨日、俺は家に帰ってくると、
あまり食事も取らずに、すぐ寝床に潜り、
そして数分後、眠りに落ちた...。
その眠りから、数時間が経った...深夜。
「お~い、起きて~時間だよ~♪」
「う...ぅ...ムニャムニャ......」
誰かの声が、俺を起こそうと耳元で囁いている。
俺はうっすらと目が覚めているが、
起きるまでには至っていない。
「ほら~早く起きろ~起きないと~
無理矢理に起こしちゃうぞ~♪」
吐息を吹きかける様な、イタズラっぽい誰かの声が
ライの耳元でそう囁く。
「起きないなぁ...致し方がない...お覚悟...んんっ!」
パチッ...!
「...って、うわぁっ!み、ミルナっ!?」
イヤな予感が働き、急速にまぶたを開けると、
俺の顔近く前に、ミルナの顔があった。
「あら、起きちゃった...残念」
「おお、お前!今、何をしようとしたんだ!?」
「何をって...ライったら、いくら起こそうとしても
全然、起きてくれないしさ、しょうがないから、
僕のあつ~い目覚めのチュウで、起こしてあげようかなって♪」
「ちち、チュウって!?お、お前、何を考えているんだぁ!?」
「なはは~♪だって、
ライの寝顔があまりに可愛かったから、テヘ...♪」
困惑するライを余所に、反省の色があまりないミルナが、
可愛く舌をチロッと小さく出す。
「テヘ、じゃねえよ...本当、ビックリしたわ!」
ガチャッ!
そんなやり取りをミルナとしていると、
突如、俺の部屋のドアノブが、回る音がする。
「どうしたのお兄ちゃん、今の叫び声っ!
一体、何かあっ――――ッ!?」
慌ててライの部屋の中に飛び込んで来たシスが、
ミルナと目が合い、あまりの出来事に
一瞬、体が固まってしまう。
「お、お兄ちゃん!その娘は、誰ですかっ!」
シスは狼狽しながら叫声を上げ、
震える人差し指で、ミルナを指差す。
「え...僕?へへ~僕はライの恋人さんだよ♪」
「こここ、恋人ですって~っ!?」
ベットの上にいるライの腕に、ギュッっと抱き付きながら、
満面の笑みで恋人宣言するミルナに、
シスが目を丸くして驚いてしまう。
「ちょ、お前!何を素っ頓狂な事を言ってるんだ!?」
「何をって...だって僕達、キスしちゃった仲じゃない!」
慌てるライを余所に、ミルナは何でと
言わんばかりの表情をする。
「ききき、キスしたですって!
うう、嘘でしょう!お兄ちゃんっ!?」
お兄ちゃん大好きッ子シスにとって、ミルナの発言は
驚愕の事実であり、困苦な表情で慌てふためき、
兄にどうなのと問いかける。
「い、イヤ、あれはミルナが勝手にした事で...っ!?」
「ええぇ~!勝手にって、ヒドい!
あのキスは僕のファーストだったんだぞ!」
ライの言葉に対し、ミルナは頬を膨らませ抗議する。
「それをいうなら、俺だって初めてだ!」
「え、本当に?ライも初めてだったの?
やったーっ!僕がライの初めての相手だぁ♪」
ライの初めて発言に、先ほどまで怒っていた
ミルナの表情が、パアッと一気に喜色に変わり、
満面の笑みで喜びを表している。
「はははじ、初めての相手って...まさか...お兄ちゃん、
大人の階段を...っ!?」
シスは喫驚し、その表情から色が抜けて、
あわあわと後退りして行く。
「ちょ!シス!何の勘違いをしているだ!
どう考えても、今の話の流れはキスの話しじゃないか!」
シスの明後日の方向の考えに、慌てて俺は否定する。
「ピクッ!キスの話しですか...。
ではやはり、キスはしたんですね...?」
「あ、いや...それはな...はは!ミルナ!テレポートだ!」
「え!?」
「だから、どこでもいいから、テレポートで
ここを脱出するぞ!」
シスの体から、どんどん噴き出す黒いオーラを直感で感じ、
これはヤバいとミルナにテレポートを頼み込む。
「ええ~嫌だよ!テレポートって、意外に疲れるんだよ~!」
「大体、お前のせいでこんな事になってるんだろうが!」
「お兄様...どこにお逃げになろうとしているんですか?」
黒いオーラに包まれたシスが、
俺を包囲する為に、じわりじわりと近づいてくる。
「キャア~~ッ!頼むミルナ!テレポートプリーズ!!」
「じゃ、テレポートするお礼に、何かご褒美くれる?」
「わ、わかったから!
褒美でも何でもやるから~お願いします~!」
最早、これまでといわんばかりの距離へ
接近しているシスを見て、
俺はミルナにしがみ付き、必死に懇願する。
「よっしゃ~!
約束の言質取ったからね、忘れちゃ駄目だからね!」
『テレポートッ!』
ミルナがテレポートの詠唱をすると体が眩い光に包まれ、
風を切る様な音が聞こえると同時に
瞬時にして、俺達は他の場所に移動した。
「ええ~!う、嘘...お兄ちゃん達が消えた!?」
目の前で起こった事が信じられず、
シスは目を丸くして喫驚し、腰を抜かす。
「ふう...危うく酷い目に合う所だった...。
済まんシス、後でお詫びのお土産を持って帰るから」
俺はシスに心から謝り、
取り敢えず、手に入れた安堵感に胸を撫で下ろす。
「それでミルナ、ここはどこなんだ?」
シ~ン......。
俺の声がただ響くだけで、
ミルナからの返事が帰って来ない。
「ち...ちょっと、ミルナさん?
そういう冗談はやめにしませんかね?」
焦った俺は、何度も回りを見渡し声をかけるが、
どこを探しても、ミルナは見当たらなかった。
「え...何?もしかしたら、どこかもわからない場所に
俺...独りぼっちなの...!?」
俺はその現実に気付くと、目の前が真っ暗になり、
表情から色がなくなっていった...。