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この恋を叶えるために Remake  作者: つよちー
3/5

第三話「小さな希望」

二ヶ月以上も更新してなくてやばい。

病室の扉を開けて彼女の名前を呼ぶ。

「春香....!」

俺に気付くと彼女は嬉しそうに笑った。

「お兄ちゃんだ!」

お兄ちゃん....?俺は混乱して頭を抱えた。春香は俺を思い出したんじゃないのか?

「ごめんなさい、蓮くん」

後から入って来た早苗さんが俺にそう言った。

「どういうことですか....」

「....ちょっと外で話しましょう」

俺と早苗さんは病室の外に出て少し離れたところで彼女は訳を話し出した。

「春香は確かに蓮くんのことを思い出したわ。でも今の貴方じゃなくて昔の貴方を思い出したの」

「昔の俺を....てことは」

「そう、もしかしたら貴方の事を思い出すかもしれない」

その言葉を聞いて俺は今までにないくらい嬉しい気持ちに包まれた。今まで全く見えなかった希望が、ほんの少しだけ見えた気がした。でも彼女はまだ遠いところにいる。あんなに近くにいるのに、果てがないくらい遠く感じる。この穴を埋めないと、彼女は戻ってこない。

「そうですか....それはすごく嬉しいです」

俺は笑顔でそう言った。久しぶりに心の底から笑った気がする。病室に戻ると春香は

「お兄ちゃんどこいってたの?どこかいくときはなんか言ってよね」

と陽気な口調で言った。それにとても子供らしさを感じる。俺は彼女の頭を撫でながら

「ごめんごめん、次は気をつけるよ」

と言うと春香は無邪気な笑みを浮かべた。絶対に、彼女の記憶を取り戻してみせる。俺はそう強く決意した。


ーーー


春香が幼少期の記憶を取り戻したことに喜びを感じていたが、不眠症は治らず相変わらず東に世話になっている。今彼女に起こされたところだ。授業中なので彼女は小声で俺に呆れの感情を抱いた。

「少しは我慢できないのかしら」

俺はそれに対して首を振ると彼女は少しだけ笑った。そっと彼女はノートを差し出して俺の白紙のノートを突いた。写せという事なのだろう。小さく礼を言って彼女のノートを写した。授業が終わるまでに何とか写し終え彼女にノートを返した。それと同時にチャイムが鳴った。周りの生徒はぞろぞろと教室を出て行く。彼女も同じように出て行くのを腕を掴んで引き止めた。彼女はとても驚く。そんな彼女にお構いなく俺は

「今日、あの喫茶店で相談したいことがある。いいか?」

と言った。

「勿論よ。当たり前じゃない」

親指を立てて少し無邪気な笑みを浮かべた。


ーーー


放課後、俺は東と一緒にあの喫茶店へ向かった。

「それで、お悩み事はなんでしょうか?」

テーブルに肘をついてそう問いかけてくる。俺は深く息を吸い彼女に俺が抱えている悩みを打ち明けた。彼女がいること。そしてその彼女が事故によって記憶喪失になったこと。それを聞いた彼女は酷く悲しい顔をしていた。

「そう、そんなことがあったのね....」

彼女は俯くと突然謝り出した。

「ごめんね、加藤くん。貴方がそんな辛い思いをしてるのに、軽率な行動をしてしまって」

「なんで謝るんだよ。俺を助けようとしてくれてただけだろ。だからお前は何も悪くない」

「ううん、自分がしたいことをしてただけ。それがたまたま貴方の為になった。ただの自己満足、ただの偽善なの」

どうしてそんな卑屈なことを言うのか、人を助けるということは例え自己満足の偽善であっても良いことの筈だ。現に俺は彼女の言うそれに助けられたのに。俺は俯く彼女の額を突いた。

「いたっ....」

「馬鹿か。そんな自己満足の偽善に助けられた奴がお前の目の前にいるだろ。そんなネガティブなこと言ってないでもっと誇らしくしろ」

そう言って彼女は目が覚めたように笑った。

「そうだね....なんかごめん」

「うん、じゃあお悩み相談してもいいかな?」

「うん、どうぞ」

一口水を飲む。

「不眠症ってどう治せばいいんだ?」

「言うのは簡単だけどそれが出来るかと言えば難しい治し方なのよね....」

彼女は長い髪を指で弄りながらそう言った。

「実は私も昔いろいろあって不眠症だったんだよね」

「え、お前も....?」

思わずそう呟くと彼女は苦笑いを浮かべた。

「不眠症の原因にも種類があって、貴方はストレス性のものね。だからその、貴方の恋人が事故の所為で記憶喪失になったのが原因ね。だからきっと貴方の恋人が記憶を取り戻せば、貴方の不眠症も相対的に治るんじゃないかな」

「そうか....確かに言うのは簡単だけど難しいな」

「私もストレス性の不眠症だったから、多分原因を解消すれば治ると思うの」

「わかった、ありがとう」

彼女も昔俺と同じ不眠症だったと知ったら何だか親近感が湧いた。苦しみは抱え込まずに打ち明ける方が気が楽になる。それをきっと彼女は分かっていたのだろう。俺は心の中でもう一度彼女に感謝した。

「ねえ、加藤くん....」

突然彼女が落ち着かない様子になった。そわそわと目を泳がせて少し顔も赤い。

「どうした?」

「えっとね....その」

「言いにくいことなら別に無理して言わなくても....」

彼女は少し食い気味にそれを否定した。

「違うわよ!別に言いにくいことじゃない....ただ」

「ただ?」

「....は、恥ずかしいのよ!それに少し前まで私のこと嫌いだった人にこんなこと言うのもなんか変だし....」

話を聞けば聞くほどそれは大したことじゃないと分かった。羞恥心が邪魔すること、俺にも分かるよ。俺だって春香に告白するときすごく恥ずかしかったからな。というかこんなことに同情する意味がない。

「別にそんな恥ずかしがらなくても大丈夫だって。全然変じゃないから」

「....本当?」

上目遣いでそう聞く彼女に俺は二度頷いた。彼女は気を取り直すように咳払いをし深く息を吸った。

「か、加藤くん....私と....と、友達になってください....!」

俺は少し可笑しく笑って

「愛の告白みたいな緊張振りだな」

と言うと赤い顔で睨んできた。

「そうですよ、愛の告白並みに緊張しましたよ」

「てことは、もしかして俺のこと好きなのか?」

少し揶揄うつもりで言ったのだが彼女は真に受けて顔を真っ赤にしていた。

「ば、馬鹿じゃないの!?なんでそういうことになるのよ!ましてや恋人がいる男の人を好きになるなんて、絶対にないからっ!」

「お、落ち着けよ....。ごめんってそんな怒ると思わなかった」

「別に....怒ってないわよ。私こそ取り乱しちゃってごめん....」

気不味い空気になった。まるで修羅場の空気だ。やっぱり女の子を揶揄うもんじゃない。

「それで....返事はどうなのよ。私と友達になってくれる?」

「勿論だよ。断れる訳ないだろ」

「よかった」

彼女は安堵と嬉しい笑みを浮かべる。それに釣られて俺も笑った。ふと窓の外を見ると橙色の夕陽は消えその残り火が薄く暗い赤が建物の陰から見えていた。太陽はもう沈んだ。俺は水を全部飲んで彼女にそろそろ帰ろうと言った。彼女は頷き一緒に立ち上がる。今度は会計はそれぞれで済ませた。流石に二回も奢られるのは男として譲れない。

「今日もお見舞いに行くの?」

外へ出た途端に彼女がそう聞いてきた。俺はそっと頷くと少し寂しげな笑みを浮かべたような気がした。

「そっか。彼女さん、お大事にね」

そう言って彼女は手を振り背中を向けて歩き出した。その後ろ姿が何処か寂しい。俺はそっとそれから目を逸らし病院へ向かった。


ーーー


病室に入るとベットの上は空っぽで春香は居なかった。車椅子もないからきっと何処かにいるだろう。俺は近くにある自販機から自分と春香の分のジュースを買ってリハビリルームに向かった。案の定、春香はいた。時間も遅いのか周りに人は居なかった。手摺を掴んで懸命に動きの鈍い脚を踏み締めて歩く彼女のその姿が俺にはとても逞しく見えた。強い人間だ。それなのに俺は、彼女が記憶を無くしただけでなんて様だ。何も思い出せず痛みに耐えながらも必死に生きる彼女と比べたら、生温いものだろう。弱い自分を嘲笑う。俺は、彼女の強さを知っている。それに憧れ、それに惹かれたから彼女を好きになったんだ。俺も彼女と同じように、強く逞しく生きるんだ。春香の恋人として。息を切らして座り込む彼女の首筋に冷たいジュースをそっとつけた。

「ひゃっ?」

肩をびくっとさせて振り向く。不安な表情をしていた。俺だと気付くとすぐに嬉しそうに笑った。

「お兄ちゃん、びっくりしたじゃんかー」

「ごめんごめん、ほい」

ジュースを差し出すと彼女は礼を言って受け取りすぐに飲んだ。疲れていたのか結構な量を飲んだ。

「ぷはぁ、生き返るよぉ」

「どうだ?歩けるようになったか?」

「ううん、まだまだだよ」

手摺を掴み震える脚でゆっくりと立ち上がる。俺はそれを支えようとしたが、彼女はそれを止めた。一人で大丈夫、ということだろう。俺は差し伸べた手を戻し、彼女をただ見守る。

「お兄ちゃん、見ててね。私、頑張って歩けるようになるから....」

「おう、頑張れ」

そう言って彼女の背中を優しく叩く。それに勢い付けられて彼女はゆっくり歩き出した。覚束ない脚取りで歩む彼女を支えてやりたい、そんな衝動に駆られたが必死に堪えた。彼女はそれを望んでいない。自分の力で、これを成し遂げたいのだ。彼女の緊張がこっちにも伝わってきて鼓動が早くなる。手摺の端に着くと彼女はゆっくり振り返り無邪気な笑顔を見せた。そしてゆっくりと戻ってくる。俺はじっと見守った。息を切らしながら一歩ずつ、精一杯歩いてくる彼女の勇姿を。今のお前は、すごくかっこいいよ。歩き切った彼女はそのまま俺にもたれるように倒れた。俺はそっと彼女を受け止め頭を撫でた。

「よく頑張った、お疲れ様」

「うん....頑張ったよ....」

荒い息の彼女を抱え車椅子に座らせる。そしてもう一度頭を撫でると嬉しそうに笑った。

「ありがとう、お兄ちゃん」

最後まで読んでくれてありがとうございます。誤字や脱字や指摘やアドバイスをくださると有難いです。

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