ゾンビ男
「しっかし、無一文じゃどこにも泊まれ……」
そう呟きかけた瞬間、通行人にはじき飛ばされた。
「ってぇ!」
何を焦っているのか、と三ツ矢はその通行人を一瞥したが、またしても別な人間にはじき飛ばされ、道路の真ん中で倒れ込んでしまった。
「何してんだ! とっとと道を空けろ!」
イエローキャブの運転手がドアの窓から身を乗り出して怒鳴る。
「くそ、何なんだよ……」
道路の脇に移動して、肩に着いた土埃を払い、人の行き交う道を見る。
そこでようやく気が着いた。
「……通行人の歩く速度が早いのか!」
まるで競歩の大会を見ているかのごとく、みな黙々と早歩きで移動しているのだ。
「道端でボサッとしてたらはじき飛ばされるな……」
しかし、土地勘が一切無いため、どこに何があるのか分からない。
まずはビジネスホテルを見つけ、次に泊まるための金を調達する必要がある。
三ツ矢は意を決して通行人に声をかけた。
「ソーリー、ちょっと聞きたいことがあるんですが!」
すると、日傘を差した女性が立ち止まった。
「どうしたの?」
「ビジネスホテルって、どの辺りにありますかね? あと、お金を借りたいんで、ATMがどこにあるかも教えていただけると助かるんですが……」
「ホテルならそこら中にあるわよ。 あなたってバックパッカー? このシーズンの宿泊費は馬鹿にならないけど、大丈夫?」
一泊50ドル前後だろう、とたかを括っていた三ツ矢だったが、相場を聞いてみた。
「どこも最低200ドルはするんじゃない?」
ニューヨークは世界中から観光客が集まる都市であり、相対的に宿泊費も高かった。
「そんなにするのかよ……」
結局、三ツ矢はホテルを諦めて、近くの公園のベンチで野宿することにした。
「明日からどうすっかな……」
忙しい街の様子を見て、三ツ矢の心は折れかけていた。
「店を出したって、あれじゃ気にも止めてくれねぇよな…… 失敗だったのかなぁ」
そんな風に考えていた時だった。
不信な影を目の端で捉えた。
「……」
やばい、と三ツ矢は思った。
ニューヨークの街が治安がいいとは限らない。
強盗の類だとして、もし永住権を盗られたらそこで終了だ。
だが、分かっていても体が動かなかった。
「もし銃を持ってたら……」
影が近づいてくる。
「ヴググ……」
やって来たのはスーツを着た男だったが、どうも様子がおかしかった。




