到着、ニューヨーク
羽田空港からケネディ空港までの道のりは13時間。
その間に三ツ矢は松野からもらった小説の写しを読んでいた。
「松野さん全部手書きかよ、すげぇな」
しかもかなりの文量である。
一体いつ書いていたんだ? という疑問もあったが、とりあえず内容を読み進めていく。
作品の粗筋はこうだ。
主人公の宇治金時は、当時まだ高級な飲み物だったお茶を流行らせようと、店を開く。
高価な茶葉を自分なりに栽培し、格安でお茶を提供すると、たちまち人気が出た。
しかし、次から次へとライバル店が現れ、次第に客足が遠のく。
宇治金時は、何とか人気を取り戻すために、今度はあんみつを開発する。
これが大当たりして、再び行列のできる店となる。
そんな中、店の評判を聞きつけた徳川家康が、和菓子を献上するよう通達を出した。
宇治金時は将軍に和菓子を献上できるとは! と喜んだが、ある噂を耳にする。
それは、普通の和菓子を提供した職人が斬首されたという話だ。
宇治金時は悩んだ末、あんみつと一緒に出したお茶に、金箔を乗せて将軍に献上した。
この変わったアイデアに喜んだ将軍は、宇治金時の店をお墨付きの甘味処とし、繁殖したという。
「将軍怖えな…… でも、教訓っつーか、ニューヨークで店を成功させるのにも、金箔みたいなアイデアが必要かも知れないな」
だが、それ以前にニューヨークのどこで店を出せばいいのか、テナント料はどうやって稼げばいいのか、材料はどのように調達するのかなど、考え無ければならないことは山ほどあった。
「まあ、何とかなるだろ」
三ツ矢は、ヘッドホンをはめて眠りに着いた。
ケネディ空港に到着し、キャスター付きのケースを転がしてホームに出ると、スーツ姿の黒人が待っていた。
「ミツヤだな? 私はグリーンカード発行事務局の者だ。 着いてきてくれ」
空港の外に出て駐車場に向かい、車に乗り込む。
それに乗ってしばらく進むと、ビルの建ち並ぶ都市部にやって来た。
車を路肩に止めて、パーキングメーターにコインを入れる。
「ここだ。 着いてこい」
男の後を追い、ビルの中に入る。
広いエントランスにあるエレベーターに乗り込むと、カードキーをかざして15階を押した。
フロアに到着し、事務所の中の控室でしばらく待つ。
数分後、男が再び戻ってきた。
「これで正式にアメリカに永住することができるが、注意してくれ。 このカードを紛失した場合、その権限は失われる」
男は三ツ矢にグリーンカードを手渡した。
「……これが、永住権!」
ビルから出て舞い上がっていた三ツ矢だったが、同時にこれからどうすればいいのかを考えなければならなかった。
「……まず、住む所を確保しなきゃな」
英語はヨモギの先生との特訓によって喋れるようになりました。