密売
「三ツ矢さんって、貯金いくらあるの?」
「……」
三ツ矢は社会人時代、入った給料は即座に遊びに使うというライフスタイルを繰り返していたため、貯金はなかった。
「何とか金を稼ぐ方法はないか……」
「貯金ないんかいっ!」
2人が店に戻ると、店主の松野が畑で茶葉を摘んでいた。
「あ、じいちゃん。 体調はいいの?」
「ああ、心配してくれてありがとね。 今日は調子がいいんだ」
篭に茶葉を摘んでいく。
「松野さん、それどうするんですか? 売り物にならないのに」
「自分で飲むんですよ。 お茶は私の健康の秘訣ですから」
「……お茶と違法ハーブを一緒にするなんて、国の考えは理解できないです」
その時、三ツ矢は違法ハーブという言葉から、あることを閃いた。
「……だったらそれを逆手に取っちまえばいいのか! 松野さん、そのお茶っ葉を全部粉末にしましょう!」
三ツ矢の考え、それは、秘密裏に茶葉の粉末を
売りさばくというものだった。
麻薬の密売といえば聞こえは悪いが、まさにそれの抹茶バージョンである。
しかし、そんなことを露骨に松野に伝えるわけにも行かないため、ニューヨークで使う為に粉末にすると言った。
早速、茶葉を石うすで引いて、店の在庫全てを抹茶に変えた。
合計で10キロ、100グラムを5万で売りさばけば500万に達する。
「だが、そこまでして抹茶を欲しがる人間なんているか?」
金を持ってて、お茶が死ぬほど好きな人物。
三ツ矢にそんな知り合いはいなかったが、それに通じる人物なら心当たりはあった。
「……あいつの力を借りよう」
三ツ矢はある人物に電話をかけた。
「みっちゃんじゃん! どちたの?」
三ツ矢が連絡を取った相手、それはキャバ嬢のナナコである。
かつて三ツ矢が100万近くつぎ込んだ相手だったが、全く振り向いてもらえず、弟子入りを期に店には行かなくなっていた。
「あっ、ナナちゃん? 急に寂しくなって連絡しちゃったんだ~」
「みっちゃんの甘えん坊。 最近お客が少なくて困ってるんだ。 また来てくれる?」
「うっ…… 今月キツいんだけど、行くよ!」
懐かしいなこのやり取り…… と浸っていた三ツ矢だったが、我に返る。
「いや、今日はビジネスの話するために電話したんだった。 ナナちゃんの知り合いに金持ちのお茶好きはいる?」
「お茶好きか分からないけど、私のファンにお金持ちの年配客は結構多いよ」
ファン……
自分のこともそう思われていたのか? と三ツ矢は軽くショックを受けたが、気を取り直して話を続けた。
「実は……」