2度目の挫折
「嘘だろ、嘘だと言ってくれ……」
三ツ矢は開店したばかりのグリーンティショップを前にして、片膝をついた。
予想外の方向から飛んできたジャブをアゴに受けた、そんな心境だった。
「俺の客を横取りされちまう……」
目には涙が浮かんでいたが、このまま引き下がる訳には行かなかった。
三ツ矢はグリーンティショップの中に入り、どんな商品が置いてあるのかを確認しに向かった。
「……」
内装はかなり本格的な和風様式。
そして、何より驚いたのはそのメニューであった。
本格的なあんみつが15種類も用意されていたのである。
「注文の方、よろしいでしょうか?」
「……! あ、ああ」
しどろもどろになりながらも、どうにか定番のあんみつを注文した。
数分後、やって来たあんみつを見て更に驚愕する。
「こ、これは……!」
それは、一度だけ食べたことのある「みたらし屋」のあんみつのそれであった。
連日行列が出来ており、あんみつならみたらし屋、と言うくらいの超老舗店である。
「伊東園に話を持ちかけた老舗って、みたらし屋のことだったのか……」
三ツ矢は落ち込むと必ず来る公園に来ていた。
ベンチに横になりながら空を見上げる。
「うまく行き過ぎだとは思ったんだ。 でも、せめてもう少しくらい夢見させてくれても良かったじゃねぇか……」
その日から三ツ矢は抜け殻のようになってしまった。
ある日、町中をブラブラしていると、偶然にもジミーに遭遇した。
「み、ミツヤじゃないか!」
「……おん?」
最初にジミーに会った時の逆パターンである。
「しっかりするんだ! 1週間も同じ格好で町を徘徊してたのかい!?」
「そうだよ~」
「……ミツヤ、これを見るんだ」
ジミーが何やら携帯を操作している。
そして、その画面を見せてきた。
映し出されたのは、クリスティーヌのブログのページである。
「クリスティーヌがグリーンティショップであんみつを食べただって!? くっそ、ふざけんじゃねぇっ!」
思わず三ツ矢は叫んだ。
「よく読むんだ!」
ジミーに言われ、記事をよく読んでみた。
すると……
「わざわざ行列に並んだけれど、オチャはとても飲めたものじゃない、それに、あんみつもニューヨーカー好みの食べ物じゃない……」
それは、酷評の記事だった。
「分かったかい、ミツヤ。 君にもまだチャンスはあるんじゃないかい?」
三ツ矢は飛行機の中で読んだ、松野の本を思い出していた。
将軍に気に入られた決め手となる金箔。
ニューヨークでも、何かアイデア一つで状況を変えられるかも知れなかった。
「……サンキュー、ジミー。 みたらし屋をKOしてくるぜ」