パブロフの犬作戦 3
決行当日、時刻は早朝。
三ツ矢はジミーのスーツを着込み、電材屋から借りた脚立を抱えてビルの前に立っていた。
自動開閉式の箱、両面テープ、念のため工具一式も揃えてある。
「よし、いくぜ!」
オフィスビルの中に入り、セキュリティゲートを通過。
エレベーターで、カードキーが許可している3階を選択。
フロアに到着し、廊下に出る。
「日曜なだけあって、ほとんど人はいないな」
ここまでは思惑通りであった。
「ダンパーの真下に点検口があるはずだ」
しかし、監視カメラの死角に点検口があるとは限らない。
その場合、カメラの死角からよじ登って、ダンパーまで辿り着かねばならない。
三ツ矢はトイレの入り口の仕切りに身を隠し、そこからカメラの位置を確認した。
「……やっぱり死角なんてねぇよな」
カメラは廊下の角に設置されており、通路を見通している。
ふと、三ツ矢は今の位置から天井を見上げた。
「この仕切りは天井まで立ちのぼっている。 ってことは、ここからなら行ける!」
三ツ矢は脚立を立てて、天井のボードを外した。
ちなみにボードはビスで止まっているだけのため、ドライバーを使って5分とかからず外せた。
ボードをトイレに隠し、脚立で天井によじ登る。
「せめぇな……」
準備していたヘッドライトを付け、ダンパーまで慎重に向かう。
ここでボードを抜いたらマズい。
配線や、天井から吊ってある棒をかわしつつ、何とかダクトまでやって来た。
ダクトを追って部屋と廊下の境に来ると、ダンパーらしき物を発見した。
「レバーがついてるから、こいつか」
廃ビルで見たものとほとんど同じ物がついてるのを確認し、横についてるスイッチを押す。
ドゴオン! という音が鳴り響いた。
「これで空気の流れを遮った。 しばらく機械室の前にいればビルメンテのやつが来るはずだ」
三ツ矢が立ち去ろうとしたその時。
ウイイイイン…… という音がした。
「……何っ」
レバーが自動的に戻っているのである。
「くそっ、戻ってるじゃねぇかよ!」
中央の監視システムで、起動したダンパーの位置は分かるようになっていた。
更に、常にビルメンテナンスの人間が待機しているため、操作一つでダンパーを遠隔で戻すことができた。
「……制御線を外すしかねぇか」
三ツ矢はドライバーを取り出し、ダンパーの脇に付いている電源類の収まった箱を開け、そこに差してある線を手当たり次第抜いた。
そして、再度ボタンを押して起動させる。
「……先に空調のコンプレッサーがやられるのが先か、ビルメンテがこいつを直すのが先か……」
ここからは賭だったが、ビルメンテナンスにダンパーの修理はできないとふんで、急いで天井から這い出してきた。
ボードを復旧し、脚立を持って非常階段を降りる。
「コンフレッサーみたいなでかいもんを収容するには絶対地下のスペースを使うはずだ」
地下1階にやって来た。
駐車場エリアの真ん中に機械室の入り口を発見し、三ツ矢はそこでしばらく待機することにした。




