パブロフの犬作戦 1
三ツ矢は一気にやる気を取り戻した。
そのまま帰国する予定だったが、変更して一旦ジミーのマンションに居候することになった。
その日、三ツ矢はリビングで考えごとをしていた。
「香りの爆弾は使える。 問題は、どこに投下するかだ」
前回は町中でそれをやったが、効果は全く無かった。
排気ガスの影響と、ニューヨーカーの歩くスピードが早かったためだ。
「密室なら嫌でも嗅ぐことになる。 ……とくればオフィスビルか」
三ツ矢の脳裏に、ある閃きが生じた。
「……オフィスビルの空調にお茶の香水を仕掛ける。 それも昼前の一瞬だけ」
スパイスの匂いを嗅いだら、条件反射でカレーが食べたくなるなるのと同じように、お茶の匂いを嗅いだらあんみつが食べたくなる、という風に反応させることができれば……
「だけど、こいつは少し大掛かりだな」
空調ダクトにお茶の香りを仕込むには、何かしらの機材が必要になると思われる。
加えて、業者を装って中に入らなければならない。
更に、決まった時間にだけ香りがするといった仕掛けも作らなければならない。
四六時中お茶の香りがすれば、クレームになってダクト内を調べられてしまう恐れがある。
「お茶を開閉式の箱に入れて、タイムスイッチで昼前に開くように設定すればいい……」
三ツ矢は、その装置を作成するために、電材屋に向かった。
「時間が来たら開閉する箱が欲しいんですよね。 そんなに大きくなくていいんで」
三ツ矢は、町にある電材屋の店員に相談した 。
「ボタンを押したら蓋が開く箱と、タイムスイッチを組み合わせれば簡単に作れますよ。 1個10ドルもしないですね」
「じゃあ、それをお願いします」
こうして、三ツ矢は自動開閉式の箱を手に入れた。
「この箱に香水を入れて、ダクトの根元あたりに仕掛ければいいが……」
ダクトは切断しなければならないのか?
それとも、何か点検口のようなものがついているのか、それ次第で手間が全く変わってくる。
「ダクトの規格はどこも同じようなもんだろ。 実物を見ておきたいな……」
三ツ矢は町の中にある取り壊し中の廃ビルに向かった。
建物の残骸に踏み入れると、元々機械室だった場所に到着。
思惑通り、ダクトがそのままの形で残されている。
「……なるほど、切断する必要なんて無さそうだ」
ダクトの付け根には、火災の際、煙を蔓延させないためのダンパーがついている。
そのダンパーの羽の点検口は蝶ネジで止まっているだけのだめ、それを外せば簡単にダクトの中を覗けるようになっていた。
「ここに箱を設置すればいい」




