実演販売!
ジミーの車でニューヨークの大通りにやって来た。
車を路肩に止め、折りたたみ式テーブル、コンロ、鍋を取り出し、フルーツ缶などが入っているダンボールも下ろす。
「ジミー、後は大丈夫だ。 ありがとな」
「頑張って! 命運を祈るよ」
ジミーは仕事のため、そのまま車に乗り込んで去って行った。
連絡先を聞いてるため、片付ける時にもう一度呼ぶ予定である。
三ツ矢はテーブルをセットして、実演販売の準備を進めた。
「よし、早速始めっか!」
大通りの脇で、三ツ矢の挑戦が幕を開けた。
三ツ矢はまずペットボトルをダンボールから取り出し、水を鍋に注いで湯を沸かし始めた。
次にフルーツ缶、餡子の缶を開け、紙コップにそれを投入、簡易あんみつをこしらえていく。
テーブルの上に瞬く間にあんみつが並んでいった。
「さあ、行くぜ! 香りの爆弾だ!」
三ツ矢は湧いた湯の中にお茶のパックを入れた。
すると、瞬く間に香りが広がり始めた。
「さあさあ、ジャパニーズあんみつ、1個5ドルだよ!」
しかし、足を止める者はいない。
「……ジャパニーズあんみつだよ! 1個5ドルだよ!」
さっきよりも声を張り上げるも、誰一人として見向きもしない。
ツカツカ、と足音だけが虚しく響き渡る。
「……くそ、この時間は通勤でみんな余裕がないのか? ……まさか!」
三ツ矢はあることに気づき、大通りの真ん中に移動した。
「香りが…… 排気ガスに紛れちまってる!?」
ニューヨークは車の通行も多く、お茶の香りが排気ガスでかき消されてしまっていた。
しかも、ニューヨーカーの歩くスピードでは、香りもほんの一瞬しかしない。
「……背に腹はかえられねぇ!」
三ツ矢は大胆な手段に打って出た。
テーブルを道のど真ん中に移動したのである。
これによって、香りのする半径が広がるのと、嫌でも通行人の目に付く。
しかし、明らかに邪魔である。
「おい! 道端で何してんだ!」
三ツ矢はとうとう道行く中年の男性に注意されてしまった。
「す、すいません…… すぐ移動します」
「一体何を売っているんだ?」
三ツ矢は、お茶とあんみつのセットで5ドルと説明をした。
「こんな子供だましみたいなものが5ドルだと? ニューヨークを舐めてるのか? ここは世界中の有名店があつまる町だぞ? 5ドルも出せばプロの入れたアメリカンコーヒーのミドルサイズが飲めるんだ。 まあ、ハイスクールの催し物としてならウケるかもしれんがな」
そう言って男は去って行った。
「ハイスクールの催しだと? あの野郎……」
「おい! お前、許可は取っているのか!?」
更に追い討ちをかけるようにして、警察が三ツ矢の所にやって来た。
「……! やべっ」
三ツ矢は職質を受け、以後道端での販売を禁止されてしまった。
爆弾、不発!