ジミー登場
男は足元がおぼついていなかった。
「まさか、酔っぱらいか?」
暗闇で手元が見づらいが、拳銃は持っていないようだ。
フラフラと男が向かってくる。
三ツ矢はファイティングポーズをとり、叫んだ。
「あんた、あんまり不用意に近づくと、元ボクシング部のジャブを浴びることになるぜ」
「ウガアッ!」
男が両手を伸ばしてきた。
三ツ矢は腕でガードしつつ、振り子のように体を振って右にかわし、男の脇腹にフックを見舞う。
「……ウグ」
うめき声をもらし、男は倒れた。
「……おい、大丈夫か?」
「……うっ」
「意識はあるか? 飲みすぎるのも程々にしないとな」
すると、男は自分のしたことに気づいたのか、慌ててすみませんと謝ってきた。
そして、事情を説明し始めた。
「この所ずっと不眠症で…… 気分転換にと散歩に出て来たのは覚えていたんですが……」
疲れ果てて徘徊し、無意識のうちに人を襲っていたようだ。
襲うと言っても抱きついてくるだけのようだが。
「……ここら辺に茶葉を扱ってる店ないか? 明日、あんたにお茶を振る舞ってやるよ」
茶葉の香りにはリラックス作用がある。
それをこの男に嗅がせてやろう、と三ツ矢は考えた。
男の名前はジミー (27)。
ニューヨークのとある企業の事務員である。
一日公園で過ごし、早朝ジミーの持つ車でニューヨーク郊外にある日本食を取り扱うスーパーに向かっていた。
「お茶ってのは日本のポピュラーな飲み物さ。 紅茶とはまた違って、煮立てると香ばしい匂いがする」
三ツ矢はジミーにお茶の説明と、自分がこれからやりたいことを話した。
「ミツヤには興味が沸いたよ! 会社を休んで正確だったかも知れない」
だだっ広い駐車場に車を止め、茶葉のパックを購入し、ジミーの自宅へと向かった。
マンションの10階に住んでおり、会社からは車で5分とかからない高級物件だった。
「死ぬほど働いてるからね。 さあ、入って」
ジミーには彼女がいて、部屋は小綺麗に掃除されていた。
「コンロ借りるぜ」
鍋に水を入れて、コンロで湯を沸かし、茶葉のパックを入れる。
しばらくすると、いい匂いが立ち上ってきた。
「いい香りだろ?」
「これは…… コーヒーとも紅茶とも違うね。 確かにいい匂いだよ」
「ペットボトルのお茶もあるけど、こうやって煮立てるとまたうまい」
その時、三ツ矢はニューヨーク市内でお茶を実際に煮立て売ったらどうなるのか? という考えを思いついた。
「……これなら足を止めてくれるかも知れねぇぞ!」