7話
マリアナは王宮に挨拶に行く事なく、屋敷で公妃から届けられた資料を元に家庭教師から授業を受けていた。今は礼儀作法や貴族の名鑑を題材にしていた。だが、マリアナは最初の時にツギハギだらけでボロボロの灰色のシャツとズボンという格好であった。この時、これを見た家庭教師の女性、セアラは大いに顔を引きつらせて固まった。
当然ながら、カリンに見つかり、速攻で衣装部屋に引っ張っていかれた。手早く、コルセット代わりの最近、開発されたキャミソールワンピースにブラジャーが合わさった下着を着けられた。
この上にシンプルな首回りまですっぽりと覆ったハイネックの足首までのドレスを着せられる。
色は彼女の髪や瞳に近いベージュのものであった。
「…まったく。お嬢様。何度言えば、わかるんですか。昨日も家庭教師の先生が来られたら、私を呼んでくださいと申し上げたでしょう。せめて、お化粧は無理でもシンプルでいいから、ドレスかワンピースを着てください!」
「…私、どうも華美な服は駄目なの。ドレスやワンピースだと窮屈だし。それに、シャツとズボンの方が機能的だとどうしても、思うのよ」
反論をするとカリンは盛大にため息をつきながら、もう先生を待たせているから出ましょうよと告げてきた。これにより、マリアナに対してのお説教は急遽、終わったのである。
そして、衣装部屋を出て今の授業に至るわけだが。セアラはマリアナの集中力と素養に驚かされていた。
礼儀作法は貴族と大公家では違う所もある。例えば、大公や公妃などの公族に対しての礼の仕方についても最上級のものから、略式のものまである。
マリアナは一回教えて少し、練習をすれば。水を砂が吸い込むように覚えてしまう。
それでも、駄目な時はセアラが良いと言うまで熱心にし続ける。
「…では、マリアナ様。大公陛下に対しての礼の仕方はご存知ですか?」
「…えっと。確か、父様は右手を胸に当てて。腰を九十度まで曲げていました」
セアラはそれは違いますと首を横に振った。
「女性の場合は右手を胸に当てて、左手は裾を摘んで。その上で腰を曲げて礼をします。足は曲げなくてかまいません」
「え。裾を摘んで礼をするんですか。それは知らなかったです」
意外そうにするマリアナにセアラは苦笑いした。
「…マリアナ様は王宮に行かれた事はあまりないと聞きました。ご存知なくても仕方ないと思います」
「そうですね。もっと、頑張らないと」
その意気ですとセアラは言いながら、手に持っていた資料をマリアナに渡した。それには大公妃の実家の公爵家などの貴族の名簿があった。それについての授業も始まった。
マリアナは集中を再開したのであった。