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5話

マリアナは殿下と庭に出ていた。殿下は自分をシグルと呼んでほしいと頼んできた。今は春なのでチューリップやシバザクラの花などが色とりどりに咲いている。

暖かな風が吹き、空は抜けるように青い。外気も暖かく、過ごしやすい気候であった。

「…シグル様。これで良いでしょうか?」

確認する為にマリアナは殿下を名前で呼んだ。すると、彼は嬉しそうに破顔した。

「それでいい。では、私もマリアナと呼んでもいいだろうか?」

「え、ええ。構いませんわ。それより、シグル様。お庭をご案内致します」

「…そうだね。では、お願いするよ」

マリアナが背を向けて歩き出したのに合わせてシグルも庭の奥へと進んでいった。




それから、一時間ほど二人で庭を散策した。言葉通り、マリアナは庭の奥にある薔薇や東方の国から取り寄せた八重桜などをシグルに見せて花の原産地やどういった肥料が良いのか、庭師から教わった知識を説明してみせた。初対面とはいえ、シグルは穏やかで人当たりが良く、マリアナの話にも笑顔で聞いてくれる。二人が打ち解けるのには時間はかからなかった。

「へえ。八重桜か。綺麗な花だね。儚げな感じがまた、趣があるよ」

「ええ。大公妃様がお気に入りだと聞いて母が取り寄せたと聞いております。とても、希少な種類だそうで。東方の国からこちらに運ぶのに苦労したとか父が申しておりました」

八重桜を二人で見ながら、話に興じる。ひらひらと花びらが風に舞う中、マリアナの白銀の髪が日の光に煌めく。

それは幻想的な光景でシグルは少し、見入ってしまう。白銀の髪は氷細工のようで花びらが雪のように見える。

春のはずなのに、マリアナは氷雪の姫君のようで。触れたら、儚く溶けて消えてしまいそうだ。

そんな錯覚に陥ってしまう。気付いた時にはマリアナがこちらを心配そうに覗きこんでいた。

「…あの。シグル様。どうなさいましたか?」

「…あ、すまない。その、何でもないんだ。ただ、八重桜があまりに綺麗だから。見入ってしまった」

「そうだったんですか。ご気分でも悪くされたのかと思いました。そうでないのだったら、良かったです」

マリアナはうまく、誤魔化されてくれたみたいだ。シグルは小さく息をついた。

危ないところだった。もう少しで彼女に触れてしまいそうだった。まだ、初対面なのに。

シグルはすぐに、また口角を上げて微笑みを作る。愛想笑いは昔から得意だ。

婚約者とはいってもまだ、公表はしていない。ゆっくりと時間をかけていけばいいのだ。彼女が自分を好きになってくれるまで待つ。この手に堕ちるまで、じっくりと。そう思うとじわじわと熱い何かが込みあげてくる。それには敢えて、蓋をしたのであった。

シグルの内面は見かけよりも複雑です。穏やかそうに見えて黒いのは父譲りか…。

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