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48話

  マリアナは奥宮で休憩を取って夕食も済ませた。


  湯浴みもしたら後は寝るだけだ。そう思っていたら何故かカリンがやってきた。寝室のドアを開けてから慌ててマリアナのいるベッドの近くまでやってくる。


「マリアナ様。大変です」


「……どうしたの。何かあったの?」


「……はい。マリアナ様にお客様です」


  よくわからないながらもマリアナはベッドから出た。カリンがちょっとお待ちくださいと言う。しばらく待つとカーディガンを持ってきた。


「そのネグリジェだとまずいので。これをせめて羽織ってください」


「わかったわ。けどお客様って。こんな夜更けにどなたなのかしら」


「……皇太子殿下です。何でもマリアナ様とこちらで過ごしたいと仰せで。いきなり何の風の吹き回しでしょうね」


  皇太子殿下と聞いて驚く。要はシグルがマリアナの部屋を訪ねてきたらしい。一体何の用事があるのだろう。カリンの勧めでカーディガンを羽織り応接間に向かった。



  応接間に行くとシグルが一人で待っていた。彼は昼間と違い、黒のシャツに黒のスラックスというくだけた格好だ。髪は洗って間もないのかまだ湿っている。


「……あの。シグル様。どうかしましたか?」


「ああ。マリアナか。すまない。いきなり来てしまって」


  マリアナは首を傾げた。何故、彼が謝るのだろう。シグルの言っている事が今ひとつわからない。


「マリアナ。君と一晩くらいは一緒にどうかと思ってね。以前も部屋に引っ張り込んだりしたけど。婚前交渉になっても責任は取るから」


  「……シグル様?!」


「声が大きい。侍女や女官達に聞こえる」


  シグルは口の前に人差し指を立てて静かにするように言った。仕方なくマリアナは言われた通りにする。けど婚前交渉って。まさか、そのつもりで来るとは。信じられない気持ちだ。


「……マリアナ。とりあえず、寝室に行こうか?」


「あの。お話するくらいならここでもできます。ですから思い留まってください」


  拒否の言葉で返答する。シグルは目を見開いた。まさか、そうくるとは思わなかったらしい。


「断られるとは思わなかったよ。けどマリアナ。俺は君と早く結婚したい。ルーデンスにもいい加減にわからせたいしね」


「ルーデンス様ですか。あの方と何かありましたか?」


「……ああ。夜這いをかけられそうになって。危うく貞操の危機になるところだった」


  マリアナはそれに驚いた。シグルに夜這いをかけるとは。いい度胸をしている。それと同時にシグルにご愁傷様と心中で呟く。


「そうだったんですか。じゃあ、添い寝くらいだったらいいですよ。一緒に夜を過ごしたと噂が立ったらルーデンス様も諦めるでしょう」


「だといいんだがな」


  マリアナはシグルに近寄ると肩にポンと手を置いた。そのまま、横から立った状態で抱きしめる。ちょっと驚かれたが。すぐにシグルが抱きしめ返したのだった。

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