46話
マリアナはお茶会にシグルと共に戻った。
最初にシグルの母であるメアリアン太公妃に挨拶をする。太公妃はマリアナが来てくれた事を喜んだ。
「……まあ。マリアナさんではないの。お久しぶりね」
「はい。お久しぶりです。太公妃殿下」
「ふふ。元気そうで何よりよ」
メアリアン太公妃は微笑みながらマリアナに手を差し伸べてきた。何だろうと思いつつも手を同じように出した。すると太公妃は彼女の手をぎゅっと握ってくる。
「……妃殿下?」
「ああ。ごめんなさいね。マリアナさん、顔色が良くないから。どうしたのだろうと思って」
太公妃の手は年齢にしては柔らかくて温かい。マリアナは母を思い出した。姉と違い、母は心配して自分にもこまめに手紙や贈り物をしてくれる。太公妃の手や笑顔はそんな母を感じさせた。
「殿下。私は大丈夫ですよ。シグル様がいらっしゃいますし」
「……ふふ。そうね。シグルがいるものね。でも何かあったら私にも相談してくれて構わないわ」
「ありがとうございます」
お礼を言うと太公妃は手をそっと離す。マリアナはほうと息をつく。
「じゃあ。挨拶もすんだし。マリアナはこちらに」
シグルがそう言ってマリアナを席にと誘導する。付いて行くと何と太公家の方々が座る方に向かう。シグルは自分のすぐ隣に彼女を座らせた。
「……もう、お茶会は始まっているよ。ほら。これは東方の国から取り寄せた玉翠というお茶だ。緑茶といって砂糖やミルクを入れなくても飲めるんだって」
「そうなんですか。とても良い香りがしますね」
マリアナは茶器という不思議な形の入れ物にある玉翠を見つめた。お茶の色は緑色でちょっと苦そうだ。それでも両手で持って飲んでみる。ほのかな苦みと甘さがあって香りが鼻から抜けた。爽やかな後味でこれが良いなと思える。
「……苦いだろ。これはお口直しのお菓子だ。キョウガシと言うそうだよ」
薄い桃色の梅という花を模したキョウガシをシグルが紙の上に置く。あまりの繊細な美しさに感嘆した。マリアナは横に置かれていた竹串でキョウガシを切り分けた。それを竹串に刺して口に運ぶ。ほのかな甘さではあるが。緑茶と抜群に相性が良い。美味しくてそれでも一気には食べずにちょっとずつ口に運んだ。全部を食べ終えるとシグルも寒天という海藻で固めた赤い魚が泳いでるのを再現したキョウガシを食べていた。
「俺はこれがお気に入りでね。夏の時期に食べるらしいよ」
「そうなんですか。私はさっき食べた物が良いです」
「そっか。あ、リナリア叔母上が来たから。挨拶してきなよ」
わかりましたと言ってマリアナは立ち上がる。緑茶は既に飲んだ。リナリアがこちらに来たので笑顔で出迎えた。
「……リナリア様。お久しぶりです」
そう言うとリナリアもにっこりと笑顔で応じてくれる。
「はい。お久しぶりですね。マリアナ様」
年齢を感じさせない若々しさにマリアナはこうなりたいと思う。リナリアは笑顔で彼女にお茶の感想を言ってきたのだった。