43話
マリアナが奥宮に来てから半日が経った。
フィルとジェシカ、カリンは荷物の整理を終えた。三人は手早く入浴の準備に取りかかる。
「マリアナ様。浴室へ行ってください」
「わかった。荷物の整理は終わったの?」
「はい。さっき、終わりました」
カリンが答えるとフィルが行きましょうと促した。マリアナは言われた通りに浴室に向かう。そうして一日の汚れを洗い流したのだった。
部屋着のクリーム色のワンピースに薄いオレンジ色のカーディガン、柔らかなベージュの内履きを身に纏っていた。マリアナは寝室にてカリン特製のハーブティーを飲んでいる。「今日はお疲れ様でした。ゆっくり休んでください」
「ありがとう。カリンもご苦労だったわね」
「はい。けどフィルさんとジェシカさんがいてくれたから助かりました」
カリンはそう言いながら微笑んだ。本当に一人だと大変なんだろうなとマリアナは思った。
「カリン。私も手伝った方がよかったかな?」
「…お嬢様。あくまでわたしや他の侍女達の仕事です。あなたの身の回りの事をするのは。あなたが自分でなさったらわたし達の仕事を取り上げる事になりかねません」
マリアナが呟いたが。カリンにちくりと言われてしまった。普段よりもきつい言い方に戸惑ってしまう。
「カリン。別に私はあなた達の仕事を取り上げたくて言ったわけじゃないわ。ただ、負担を減らしたくて…」
「すみません。ちょっと気持ちが高ぶっているみたいです。失礼な事を言いました」
「カリン…」
「本当にすみません。わたしはこれにておいとまします。お休みなさいませ。マリアナ様」
一礼すると逃げるようにカリンは寝室を出て行った。マリアナは何も言えずに見送る事しかできなかったのだった。
翌朝、フィルとジェシカに起こされた。
「おはようございます。朝ですよ。マリアナ様」
「んっと。おはよう。フィル、ジェシカ」
「洗顔と歯磨きを最初になさってください。後、マリアナ様。午後から大公妃様がお茶会を開かれます。午前の内に準備をしますね」
マリアナはお茶会と聞いて眠気が一気に吹き飛んだ。
「えっ。午後から大公妃様のお茶会があるの?」
「はい。ですから身支度をと」
「…わかった。じゃあ、歯磨きをしてくるわ」
マリアナはベッドから降りると洗面所に行った。念入りに歯磨きをすませて洗顔もする。そうしてからお茶会用のドレスと髪飾り、ネックレス、イヤリングを決めた。全部、マリアナの実家のラインフェルデン公爵家に伝わる家宝だ。銀製のもので統一してシグルの瞳、紫色の水晶ーアメジストであしらわれたイヤリングやネックレス、髪飾りを身につけた。
偶然にもラインフェルデン公爵家にはアメジストの使われた宝飾品がいくつかあったのでカリンが手配していたらしい。それらで飾りドレスも薄紫色のスミレや可憐な花の刺繍が入ったもので首筋や胸元はレースになっていた。それを身に纏い、眼鏡を外して薄くお化粧する。
普段とは段違いの仕上がりに侍女三人は惚れ惚れとしたのだった。