39話
マリアナはシグルの寝室で寝ていた。
だが、なかなか寝付けない。仕方なく起き上がる。ベッドから降りて寝室を出た。応接間に行くとソファにシグルが寝転がっている。
彼はマリアナの足音が聞こえたのか目を覚まして起き上がった。
「…ん。マリアナ?!」
驚いたのかシグルは目を見開いてマリアナのいる後ろを振り返っている。
「あ。ごめんなさい。眠れなくて」
「え。眠れないって。やっぱり俺の使っている部屋だと落ち着かないか」
「そんな事はないです。ただ、目が冴えてしまったというか」
そっかと言うとシグルはソファから立ち上がった。手招きをする。
「…マリアナ。こっちにおいで」
「シグル様?」
マリアナは首を捻った。だが、シグルは諦めずに手招きをした。仕方なしにマリアナはシグルの側まで行く。隣を指差されてそこに座る。
「シグル様。どうしたんですか?」
「いや。眠れないんなら俺と話でもと思って。まあ、あんな事があってまだ一日しか経ってないもんな。目が冴えてしまうのは仕方ないと思うよ」
「そうですね。先ほどはシグル様が来るとは思わなくて。驚きました」
マリアナが言うとシグルはそうだなと頷いた。ふと、マリアナの肩に自分のブランケットを掛けてやった。
「ごめん。マリアナ、今は秋に近い。大丈夫だとは思うが寝間着のままだと色々まずいし。せめてこれを掛けておいてくれ」
「…ありがとうございます」
マリアナは礼を言った。ブランケットを肩に掛けた。
「マリアナ。君にはお姉さんがいると聞いた。けっこう、きつく当たられていたらしいな」
「ええ。姉のマルグレーテとは仲は悪いですね。王宮に行く前も調子に乗るなと言われました」
「ふうん。君は人見知りではあるけど真面目なのにな。頭も良いし。どうしたらそんなに嫌えるのか理解ができん」
シグルが何の気なしに言う。マリアナはその言葉に頬が熱くなるのがわかった。本気で言っているがなかなかに照れる。
「シグル様。姉はあなたの妃になりたかったようです。けど、私がその座を奪ってしまった。それが悔しいようですね。姉の婚約者の方も私に横恋慕していたようで。そのせいで婚約破棄に至ってしまったとも聞いています」
「…そんなことがあったのか。君にことさらきつく当たっていたのは婚約者殿のせいでもあるな」
はあとマリアナは返事をした。シグルはマリアナの髪を撫でた。
「マリアナ。姉君を王宮に呼ぶ。この件では姉君にも話を聞いた方が良さそうだ」
真剣な顔で言われた。マリアナは涙が出そうになるのを我慢する。シグルが彼女の背中を撫でたのだった。
「姉君を王宮に明日呼ぶよ。いいか?」
「シグル様が決めたのでしたら私は何も言いません。姉をお呼びしたいのでしたら従います」
「マリアナ。君には辛い思いをさせるな。俺も姉君の無実を願いたいよ」
シグルはそう言ってマリアナを引き寄せた。抱き締めながら肩口に顔を埋める。シグルはしばらくそのままでいたのだった。