34話
今回は少し長いです。
マリアナは食事を終えるとカリンにも休むように言ってから寝室に向かう。そして、ストールをサイドテーブルに畳んで置いてからベッドに上がる。室内履きとカーディガンを脱いだ。
(ふう。何か、色々あって疲れたわ)
カーディガンは軽く畳んで枕の脇に置いた。髪を留めていたピンを全部外しサイドテーブルに置きにいく。
コームや髪紐も同じようにする。
マリアナはシーツと毛布に潜り込むと目を閉じた。緩やかに眠気がやってくる。
そのまま、深い眠りについたのだった。
あれから、半日近くが経ってマリアナはやっと目が覚めた。カリンが心配げにしながらフェリカと一緒に起こしにくる。すでに時刻は昼近くになっておりマリアナは慌てて身支度を始めた。
歯を磨き顔を洗い、部屋着用のワンピースから外出用のドレスに着替える。フェリカがあまり窮屈でないタートルネックの長袖のドレスを選んでくれた。色は淡いベージュ色で胸元や腰回りにはきらきらと光るビーズが付けられている。落ち着いた上品なデザインでマリアナは見ただけで一級の品だとわかった。
「マリアナ様にはもっと華やかなドレスがお似合いでしょうけど。あまり派手すぎるものはお好きではないと聞きましたから。こちらに致しましたけど。いかがでしょうか?」
フェリカに尋ねられてマリアナはにこやかに答えた。
「ええ。大丈夫よ。むしろ、とても素敵なドレスで私にはもったいないくらいだわ」
「それでしたらよかったです。後、お食事を終えられましたらウェルシス様とレイシェル様のおられる執務室においでください。お二人からお話がありますので」
「わかったわ。行きますとお伝えしてもらえるかしら」
「かしこまりました」
フェリカは頷くと部屋を出ていく。マリアナはお話とは何だろうかと首を傾げた。もしかすると今回の投獄された事に関する事だろうか。そんな考えが頭をもたげる。自然と背筋が伸びる思いでいたマリアナだった。
食事を終えるとマリアナは髪を梳いて結い上げてもらい、化粧をする。カリンとフェリカの二人にやってもらって礼を言う。そうして執務室に向かった。
二階の奥にそれはあり少しばかり歩くとドアが見えてくる。フェリカがノックして中から返事があった。
マリアナだけが執務室に入ろうとしたがフェリカにカリンも入るように言われる。了承してから二人で中に入った。
執務室の中には昨日に会ったレイシェルと既に八十は越えているだろう老人の二人だけがいた。老人は真っ白な頭をしていたが瞳の色は現大公のサミュエルによく似た紫色をしている。マリアナはそれを見てすぐにシグルの瞳の色も思い出した。
「ふむ。君が孫のシグルの婚約者殿か。話に聞いていた通りに雪の姫のようだな。が、中身はどうかな。して今からシェイドの事で話をする。座りなさい」
「…あの。大公陛下、ご機嫌麗しくおめでとうございます。このように離宮でお助けいただき身に余る光栄です」
マリアナは腰を落としてドレスの裾を摘まんで頭を下げる。カリンは深々と礼をした。が、老人こと前大公のウェルシスは低い声で命じた。
「堅苦しくする必要はない。マリアナ殿といったか。君は孫の許嫁。よそよそしくせずに普通に振る舞ってほしいものだが」
マリアナは恐る恐る頭を上げた。ウェルシスは穏やかに笑ってこちらを見ている。
「わかりました。でしたらそうさせていただきます」
「うむ。それでいい。さて、立ち話も何だからそちらに座りなさい。侍女殿もな」
「ありがとうございます」
カリンが答えてからマリアナはウェルシスが手でさしたソファに座る。カリンも隣に座った。
「マリアナ殿。昨日は君も疲れていただろうから話を先伸ばしにしていたが。今であれば、聞ける用意もできているだろう。何故、シェイドがシグルを狙ったのかそちらの侍女殿に聞いたかな?」
「…聞きました。確か、スノーヴァ侯爵と結託してやったと聞いています」
「それは半分は正解だ。だが、後半分は間違っている。シェイドも幼い頃は兄のシグルを慕っていた。だが、スノーヴァ侯爵と娘のユリアが近づいてからは変わってしまった」
そう言ってウェルシスはため息をついた。マリアナは身が引き締まる思いでウェルシスとレイシェルを見つめたのだった。