33話
マリアナとカリンは身支度ができるとフェリカが持ってきてくれた軽食をとった。簡単なサンドイッチとスープにスコーンだ。サンドイッチにはレタスとサーモンが挟んでありシーザードレッシングがアクセントになっている。スープはあっさりとしたコンソメ味で具はニンジンとタマネギ、ジャガイモも入っていた。スコーンも甘くはなくてチーズとベーコンが入っている。どれも女性でも食べやすいように味付けは濃くない。
「おいしいわ。サンドイッチもスープもあっさりしていて。スコーンは塩気があってお腹が空いた時にいいというか」
「そうですね。スコーンはリナリア様の旦那様のシンフォード公爵の好物だそうですよ。ベーコンとチーズ入りがお気に入りだと以前に大公妃殿下からお伺いしました」
「へえ。公爵がお好きでいらっしゃるのね。じゃあ、こちらの料理長とかが知っているのかしら」
「確か、レシピをレイシェル様にお教えしたことがあると妃殿下はおっしゃっていたような」
カリンが言うとマリアナは成る程と頷いた。ふと、ドアがノックされて返事をする。フェリカが入ってきた。
「あら、フェリカ殿。ちょうどよかったわ。聞きたい事があるの」
「はい。なんでしょうか?」
「…今、私たちが食べているスコーンなのだけど。これはリナリア様の旦那様のシンフォード公爵がお好きだと聞いて。レシピをレイシェル殿下が現公妃殿下から聞かれたとか。料理長が教えていただいて作ったものなの?」
マリアナが聞くとフェリカは困ったように笑う。
「いえ。こちらには料理長はいません。代わりにわたしや他の侍女が作っています。ちなみにマリアナ様方が召し上がっているスコーンはレイシェル様がお作りになったものです」
フェリカの答えに二人は驚いてスコーンを落としそうになってしまう。
「ええっ。これをレイシェル殿下がお作りになった?本当なの?」
「はい。本当です。レイシェル様は昔から料理やお菓子作りが好きでいらして。後、土いじりもお好きですよ」
意外過ぎてマリアナとカリンは目を見開いた。フェリカはレイシェルが若い頃はなかなかのお転婆で畑仕事や木登り、狩りが好きだったと語る。女らしい事より外で駆けずり回る方が性に合っていたらしい。そのせいで結婚するのが世間一般より遅かったという。それを聞いてさらに驚くマリアナとカリンだった。
「とまあ、こんな所ですかね。レイシェル様の結婚相手はウェルシス様、先代の大公陛下です。お二人とも互いに一目惚れだったと伺っています」
二人のなれ初めまで聞いてマリアナとカリンはへえと神妙な表情だ。フェリカはこほんと咳払いをした。
「さて、マリアナ様。お食事を終えられましたらお休みになられたらどうでしょう。レイシェル様やウェルシス様は明日になったらお話をしたいと仰せですので」
「ええ。そうさせてもらうわ。色々と気遣いをありがとう」
「いえ。全てはウェルシス様とレイシェル様のお計らいです。マリアナ様には丁重におもてなしするようにと言付かっていますので」
フェリカはそういった後、寝室の用意をしてくると居間を出ていった。食事を再開したマリアナとカリンだった。