30話
マリアナの牢獄の鉄柵の前にいたのは声からして男性のようだった。まだ、若いらしいのは何となくわかる。
「…はい。確かに私がマリアナ・ラインフェルデンです」
「なるほど。君がね。道理でシグル殿下が気に入るわけだ。白銀の姫というのもあながち嘘ではないらしい」
クスリと笑った後で男性はかちゃりと一つの物をポケットから取り出したらしい。ガチャガチャと音がして南京錠が外されて扉の鍵も開けられた。きいと扉が開く。
「さあ。まずは君からだ」
マリアナはカリンのいるらしい隣の方の壁をちらちらと見ながらも扉をくぐって外へと出た。低めのヒールを履いていたとはいえ、足元はふらつきそうになる。そこをぐいと腕を掴まれて支えられた。
「と、危ない。君、大丈夫か?」
「ありがとうございます。あの、助けていただいて失礼だとは思うのですけど。お名前をお伺いしてもいいでしょうか?」
「…ああ。そういえば、まだ名乗っていなかったな。俺はシグル殿下の側近でシンフォード公爵の息子だ。名をエルリックという。エドワード・シンフォードの一応、嫡男だ」
エルリックと名乗った男性はマリアナの腕を離すとカリンの方の牢獄の鍵も開けた。
「あの。エルリック様。どうして私やカリンを助けてくださったんですか。シンフォード公爵家とラインフェルデン公爵家にどういう繋がりが…」
「すまないが。今はここから逃げ出す方が先だ。訳は後できっちりと話すから」
「わかりました。確かにここから出る方が先ですね」
マリアナが頷くとカリンが牢獄から出て来た。足枷と手枷を二人は付けていたが。それの鍵もエルリックは取り出すと一つずつ開けていく。
カリンの足枷なども開けてしまうとエルリックは素早く二人の手首や足首についた傷を回復術で治療した。
たちまち、傷は消えてじくじくとした痛みが消えた。
「すごい。これが癒しの力ですか?」
「ああ。俺はこれでもヴェルナード大公家の血が母から入っているのでね。癒しの力も受け継いだんだ」
マリアナがきくとエルリックは頷きながらも歩き始めた。それに二人も続いたのだった。
マリアナとカリンはエルリックに連れられて地下牢獄を出た。外はやっと朝日が昇ろうとしていて空が白み始めている。眩しい中でもマリアナはエルリックの顔を見て驚く。
父のエドワードから受け継いだ濃いめの茶色の髪と母のリナリアにそっくりの緑色の瞳の美丈夫がいたかららだ。それに彼はどことなくシグルの面影があった。
目元などが似ている。エルリックは少し切れ長の緑の瞳を細めた。
「…おい。とにかく急がないと見つかるかもしれんぞ。急げ」
「ごめんなさい。急ぎます」
父のエドワードよりは女性に対して冷たいのは否めないか。そう思いながらマリアナはひたすら歩き続けたのだった。