26話
カリンを見送ってから丸一日が経った。マリアナはその間、一睡もせずに食事も満足に食べられないでいる。このままでは駄目だとジュライが心配して食べやすいようにと果物や細かく刻んだ野菜を煮込んだスープを持ってきてくれた。
「マリアナ様。せめて果物だけでも食べてください。でないとお倒れになってしまいます」
「…ありがとう。けど、カリンの事が心配で」
「お嬢様…」
ジュライは泣きそうな顔でマリアナを見た。白い肌は健康な色をしておらず、青白いものになっている。
髪も艶を失っており一晩で頬も少しこけてやつれているのがわかった。ジュライはマリアナをソファから立たせると寝室に誘導する。
「ジュライ?!」
「お嬢様は少しでも休息を取ってください。とてもではありませんけどお顔色がよくありません。今後、何があるかわからないんですから。せめて元気でいないと」
ジュライはそう言って寝室のドアを開ける。マリアナの手首を掴んで先に中に入った。
ぐいぐいとベットまで連れていき、マリアナを端に座らせた。ドアを閉めてからマリアナに寝るように言う。
「けど。こんな大変な時に」
「だからこそです。もしかしたらカリンさんも戻ってくるかもしれません。先はわかりませんけど。マリアナ様はお休みください」
ジュライの言葉にマリアナは微かに笑う。金とも銀ともつかない美しい眼が細められる。銀糸にも見える髪はさらりと肩に流れた。
ジュライは同性ではあるが見とれてしまう。シグルが虜になったのもわかるような気がした。
マリアナは言われた通りにベットに横になって眼を閉じた。それをジュライは見届けるとドアを静かに開けて寝室を出たのだった。
カリンは取り調べを受けた後、地下牢獄に連れてこられた。騎士達に無理に手枷と足枷をつけられて歩かされている。ガチャと音が鳴り歩きにくいことこの上ない。
足枷には鎖で鉄球がつけられておりそれを引きずっていた。地下牢獄には途中で階段もありカリンはそのたびに転びそうになる。騎士達は助けてはくれない。
手首や足首は擦れて血がうっすらと滲んでいた。騎士達の歩みが止まる。一つの牢獄の前にたどり着いていた。
「…ほら、ここがお前の入る場所だ。容疑が固まるか晴れて無実の身になれかするまでお前はここで過ごさなければならない。逃げ出そうとしても無駄だからな」
「わかりました。マリアナ様にはわたしは死んだとでも伝えてください」
「わかったよ。伝えておこう」
やけに親切だなと思いながらもカリンはおとなしく開けられた入り口から牢獄に入る。ガチャンと鍵が閉められて騎士達は牢獄から離れていく。カリンはふうとため息をつきながら冷たい剥き出しの石床にへたり込んだのだった。