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20話

シグルは花が咲き乱れる中を歩いていた。そこには婚約者のマリアナや両親はいない。兄弟達もおらず、一人だけであった。

ただ、花園が続く中でそぞろ歩きをする事しかできる事はなかった。ただ、弟の驚き、衝撃を受けた顔は思い出す事ができる。

そんな時に空からだろうか。不思議な声が聞こえてきた。

<…公子よ。何をそんな所でほっつき歩いている。そなたの姫が悲しんでいるぞ>

男のような女のような変な声だ。頭に直接響くようなものである。シグルはほっつき歩いているといわれて腹が立った。

<誰がほっつき歩いているだ。ふざけた事を言うな>

反論するとくつくつと声の主は笑ったらしい。

<言葉通りではないか。そなた、やるべき事があるのに。こんな場所でのんびりしている暇はなかろう>

<確かにそうだが。で、あんたは誰なんだ?>

問いかけてみると声の主は笑うのをやめたらしかった。真面目な口調で言ってきた。

<…わしか。あんたとは失礼ではあるが。まあ、教えてやっても良いか。わしはそなたの祖先じゃよ。かのヴェルナード公国の建国の時に初代太公であった者よ。シグルよ。そなたはそろそろ目覚めるべきだ>

何を言っていると口にしようとしたが。意識が無くなり始めた。ぐらりと体が傾ぐ。

<そなたは父のサミュエルから治癒を受け継いだはずだ。叔母のリナリアにも似て予知の力もあるはずなんだがな>

何の事だと言いかけたが。目の前が真っ暗になって何も見えなくなった。




「…シグル。私がわかりますか。母ですよ」

温かな手と穏やかな声でシグルは重い瞼を無理に開けた。そこには母の太公妃、メアリアンの姿があった。

目だけで確認すると母や父のサミュエル太公に弟、何故か婚約者のマリアナの姿もあった。

「…母上。それにマリアナ?」

返事をするもその声はひどく掠れていた。呼ばれた母とマリアナは涙ぐみながら互いに目線を交わしあった。

「良かった。気がつかれて。シグル様は毒のせいで寝込んでおられたんですよ」

マリアナが言うとシグルは自分がベットに横になっているのにやっと気がついた。

「マリアナ。わたしはどれくらい、意識を失っていたんだ?」

「…丸二日は意識を失っていたかと。解毒薬をすぐに医師が飲ませたんですけど。峠は毒を盛られた日の夜中だと聞きました」

二日と聞いてシグルは驚いた。道理で体が怠いわけだ。そう思いながら父の太公を見る。

太公はシグルの側まで来るとふうとため息をついた。

「シグル。そなたが目覚めて何よりだ。後数日、少なくとも半月くらいは静養すると良い。代理は弟達にやらせる」

「わかりました。お言葉いたみいります」

太公は小さく頷くと椅子から立ち上がった。太公妃も同じように立ち上がる。

「では、わたし達はこれで政務に戻る。ゆっくり、休むといい」

「…シグル。また、明日も様子を見に来ますね。無理は禁物ですよ」

二人はそう言うと寝室を後にした。弟も退室する。残るはマリアナだけになった。

「シグル様。ご気分はいかがですか?」

「まだ、体が怠いな。心配をかけて悪い」

「気にしないでください。私の勝手でこちらにいるだけですから」

マリアナはそう言うとシグルの額に浮かんだ汗を拭う。シグルは体から力を抜いた。

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