2話
衣装部屋に入り、カリンから深みのある青に銀糸の刺繍が入った優美なドレスを手渡される。後、装飾品として銀製の中心にダイヤモンドを嵌めこんだネックレスや高いヒールも渡された。
「…後でイヤリングや髪留めも選びますから。そのおつもりで」
「そんなに私を飾り立てる必要はないんじゃないの。公子様にお会いするからと言ったって。大げさだわ」
そう言うとテキパキとしていたカリンの動きが止まった。それに何故か、気まずさを感じる。
「お嬢様。たかが、お会いするだけとはいえ、失礼のない程度にはお支度をするのが淑女として当たり前です。今の格好、髪はボサボサだわ、眼鏡はださいし。上下共にツギハギだらけのシャツとズボンでよくも公子殿下にお会いしようなどと思えたものですね。ええ、今の格好でお部屋からおいでになったら、速攻に奥方様のレイラ様とマルグレーテ様に連れ戻されてお説教と夕飯抜きを実行される事でしょう」
じとりと半目で睨みながら、カリンは滔々とマリアナに苦言を呈した。それは逃げようとしていたマリアナの心にチクチクと刺さる。
涙目になりながら、マリアナは銀と金の複雑な色の瞳をカリンに向けた。瓶底ではないものの、黒いフレームの眼鏡はださいが。それでも、大量の本の読みすぎで視力の多少弱い彼女には手放せない物になっていた。
カリンはウルウルとした眼差しを向けられても冷静であった。こほんと咳払いをすると無情にもマリアナの背中を押して衣装部屋を出た。
「さ、お嬢様。お支度をしましょう。まずは下着とコルセットからですよ」
「…わかったわ、カリン。お手柔らかにね」
頷きながらも黒紫の公子と噂されるシグル殿下を思い浮かべたマリアナであった。
その後、ぎゅうぎゅうとコルセットを締め上げられ、苦しい思いを味わいながらもマリアナはドレスを身に纏い、髪を結い上げてもらう。髪の一房を三つ編みにして後ろにやり、残った髪をぐるぐると巻いてアップにするという可愛いといえる髪型にした。
銀製の小粒のダイヤモンドのイヤリングと同じデザインのネックレスを身に付ける。最後に金の縁取りに銀の蔦草模様があしらわれた髪留めを左側の側頭部につけた。
大きな姿見の前に歩いて近づくと常よりも豪奢に着飾った女性の姿が映っていた。
「…ふう。やっと、公子様の御前に出ても遜色のない出来に仕上がりました。いいですね、お嬢様。にっこり笑顔と優雅な態度を忘れないようにお願いしますよ」
「……わかっているわよ。へまはやらかさないようにするから」
また、ため息をつきながら、自室を出たマリアナだった。




