19話
マリアナは馬車から下りてすぐにシグルの婚約者だと衛兵に告げた。衛兵達はマリアナの髪の色や瞳を見てすぐに噂の白銀の姫君だと気がついたらしい。
当の本人は気がついていないが。衛兵達は深々と頭を下げると門を開けてくれた。マリアナは再び、馬車に乗って門をくぐった。
王宮の中に入ると馬車から下りて徒歩でシグルの部屋に向かう。マリアナが来たという知らせを受けたのか侍女が迎えに来てくれた。側には騎士も二人ほど付いている。
シグルの護衛を任されている二人だ。マリアナに一礼をするときびきびと声をかけてくる。
「…マリアナ様。シグル殿下のお部屋へご案内いたします」
「ありがとう。ではお願いするわ」
「こちらになります」
騎士の片方が手で行く方向を示しながら歩き始めた。マリアナは侍女と共に後を付いて行った。
マリアナがシグルの部屋にたどり着いたのは到着してから十数分は経ってからだった。騎士がドアを開けると応接間には太公妃のメアリアンや兄弟の公子方や公女方がおられた。他には叔母に当たるリナリアの姿もあり、これには驚いた。
マリアナはまず、太公妃のメアリアンに挨拶をする。
「太公妃殿下。このたびはシグル殿下がお倒れになられてお気持ちはいかばかりかと思います。私、今日はお見舞いに参りました」
「…まあ。マリアナ殿。よく来てくださったわね。あなたがおいでになれば、シグルも喜ぶわ」
メアリアンは目に涙を浮かべながらも笑いながら受け答えをしてくれる。マリアナはおいたわしいと思いながらもあえて余計な事は口にしない。
次にシグルの弟のシェイドやローデヴェイク、レナードにも挨拶をした。ローデヴェイクは十一歳になるが年齢よりもしっかりしている。レナードも同様だ。
「ねえ。マリアナ様はシグル兄上は助かると思うかな?」
「シグル様は絶対に助かります。ですから、レナード様も神様にお祈りしましょう。助けてくださいます」
レナードに問われてマリアナは力強く答えた。レナードは目を見開きながらもこくりと頷いた。
「…そうだよね。兄上は助かるよね。ありがとう、マリアナ様。僕、何だか元気が出てきた」
にっこりとレナードは笑う。父のサミュエル太公に似てレナードは瞳が赤紫色だ。髪も栗毛色で神秘的でさえある。マリアナはそう思いながらシグルがいる寝室へ向かった。
寝室に入ると既に医師と太公がいた。マリアナはすぐに気づくと太公に一礼をする。が、太公は楽にしてよいと言う。言われた通りにしながらシグルが横たわっている寝台に近づいたのだった。