18話
シグルが毒を盛られたという情報が太公に届いたのはすぐ後だった。太公は医師に解毒薬を飲ませるために毒の成分の調査を命じた。
「…よいか。シグルに早めに解毒薬を飲ませるのはもちろんだが。毒の成分をただちに調べよ!」
「かしこまりました。皇太子殿下に解毒薬をお飲ませいたします。毒の成分は部下にすぐに調べさせますので」
医師長が跪いて一礼をすると彼はすぐにシグルの居室へと走っていった。それを見送りながら太公は俯いた。まさか、自分の息子が毒を飲まされるとは。大きくため息をついたのだった。
シグルは駆けつけた医師長がすぐに調合した解毒薬により一命を取り留める事はできた。だが、それでも油断を許さぬ状況が続く事になる。彼が意識を失ったときき、太公妃のメアリアンや兄弟達が駆けつけた時には昏睡状態にあった。
母であるメアリアンは医師長に容態を問うた。
「医師長。シグルは大丈夫なのですか?」
「…殿下。皇太子殿下は一命を取り留める事はできましたが。意識はすぐにはお戻りにはならないかと。今日の夜が峠になると思われます」
「そうですか。やっと、あの子に婚約者の方ができたというのに。何故、このような事になったのか」
メアリアンは目元に浮かんだ涙をハンカチーフで拭いながら、小さな声で呟いた。医師長はそれを沈鬱な表情で見つめていた。
そうして、シグルが昏睡状態にあるという情報はラインフェルデン公爵家にもすぐにもたらされた。公爵夫妻は非常に驚き、シグルの婚約者であるマリアナにだけは知らせた。
自室にてそれを知らされたマリアナは少なからず、衝撃を受けていた。
「お父様。お母様。皇太子殿下がお倒れになったのは本当なのですか?」
震える体を抱きしめながらマリアナは両親に問いかけた。
父の公爵は頷いた。マリアナはそれに目眩を覚えた。まさか、シグル様に命の危機になるような事が起きるとは。予想だにしていなかった。
「…マリアナ。すぐに王宮に行く支度をしなさい。太公陛下や妃殿下の許可は取ってある」
「そうよ。シグル殿下のお見舞いは行って来なさい。あなたがいたら少しは殿下も安心だろうから」
母の言葉も受けてマリアナは頷いた。それを見て両親は安心したのかマリアナの部屋を出た。
マリアナは侍女に言って身支度をしてから、前からまとめておいた荷物を持って玄関ホールに急いだ。
執事に王宮に行く旨を両親に伝えるように言付けてから外に出る。馬車は既に用意されていてすぐに扉を御者に開けてもらって乗り込んだ。
荷物を侍女にも持ってくれるように言っていたので彼女も後に続く。扉が閉まると直後に馬車は動き始めた。窓の景色を眺めながらマリアナはシグルは大丈夫だろうかと考えたのだった。